核兵器を全面的に違法化し、保有や使用を禁じる核兵器禁止条約の第3回締約国会議が、「核なき世界」への決意を新たにする政治宣言を採択して閉幕した。宣言は「核廃絶は単なる願望ではなく、世界的な安全保障と人類の生存に必要だ」と訴え、核抑止力への依存を強める国際情勢への危機感をあらわにした。
今年は広島、長崎への原爆投下から80年に当たる。昨年、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を受賞し、核廃絶を願う国際世論の高まりが期待された。宣言にも被団協の受賞に対する祝意が盛り込まれた。
しかし、現実には核軍縮の流れに逆行する動きが相次ぐ。米トランプ政権の復活をはじめとする「自国第一主義」の台頭で、核廃絶を求める国と抑止力に頼る国との分断はより深まったと言わざるを得ない。
米国の「核の傘」の下にある軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)加盟国からのオブザーバー参加がなかったのは今回が初めてだ。ウクライナへの侵攻を続けるロシアの脅威に対抗し、NATOの結束を優先する判断とみられる。
会期中にはフランスのマクロン大統領が同国の核抑止力を欧州全体に拡大させる構想を公表し、衝撃を与えた。核軍拡競争を加速しかねず、慎重に見極める必要がある。
日本政府は、米国の核抑止力を重視する立場から禁止条約に参加せず、被団協などが求めるオブザーバー参加も3回連続で見送った。
だが、核兵器を持たない国が主導する禁止条約と、核保有国やその同盟国が参加する核拡散防止条約(NPT)は本来対立するものではない。核兵器による壊滅的な被害を防ぐため、補完し合う関係である。
宣言は、NPTを中心とする核不拡散体制の「弱体化」を指摘し、米ロ間に唯一残る核軍縮合意、新戦略兵器削減条約(新START)の失効や、核兵器システムへの人工知能(AI)導入に対する懸念を表明した。日本政府が双方の「橋渡し役」を自任するならば、こうした非保有国の声を受け止め、保有国側に対話を促す役割を果たすべきだ。
禁止条約に名を連ねなくても、締約国が検討する核実験の被害者支援と環境修復のための基金設立などの議論に加わることはできる。唯一の戦争被爆国であり、被爆者とともに救済の枠組みを築いてきた日本の経験が役立つのではないか。
不安定化する国際情勢にあって、核兵器の時代を終わらせる道は険しく、実現には国際社会の明確な意思と行動が欠かせない。核兵器禁止条約の意義を再確認し、核軍縮の先頭に立つ覚悟が日本に求められる。