中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)が、政府活動報告や2025年予算を採択・承認して閉幕した。トランプ米大統領が関税引き上げなど対中強硬路線を貫く中、25年の経済成長目標を3年連続で5・0%前後と設定し、米国に対峙(たいじ)する姿勢を示した。

 13年に就任した習近平国家主席は3期目の任期の折り返しを迎える。全人代では政策についての議論が少なく、閉幕後の首相会見も昨年に続き開かなかった。習氏への権力集中を改めてアピールする場となった感が否めない。

 米国第一主義を掲げるトランプ政権は、国際秩序に挑発的な言動を繰り返す。ロシアは、国連常任理事国としての責任を無視するかのようにウクライナ侵攻を止めない。

 中国は25年の国防費を前年から7・2%増やし日本の防衛費の4倍超としたほか、米軍に対抗して軍備のハイテク化も推し進める。米中ロの覇権争いがさらに過熱しないか危惧する。

 内政を安定させて国内需要を高め、世界経済の活性化と国際社会の平和に貢献する大国の責務を、中国は今こそ自覚してもらいたい。

 24年の中国の経済成長率は政府目標の5・0%を達成した。しかし地方政府による巨額の不動産開発が各地で頓挫し、日本のバブル崩壊と同様に消費不振に陥っているのが実情だ。国内でさばき切れない鉄鋼や電気自動車で輸出攻勢をかけた結果、価格急落など世界市場にも影響を及ぼしている。

 日本人学校に通学途中の小学生が犠牲になるなど無差別殺傷事件が相次ぐのは、景気低迷で社会全体の閉塞(へいそく)感が高まっている証しといえる。全人代では暴力犯罪を「厳しく処罰する」と強調したが、対症療法に過ぎない。農村と都市部で広がる一方の経済格差を解消し、若者の働き口を増やすなど、内需の拡大にも結びつくような国民生活の安定策を講じるべきだ。

 全人代に合わせて会見した王毅外相は、日中関係が「改善と発展の前向きな勢い」を示していると述べた。東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に対する強硬な姿勢を一部見直すなど、最近になって日本との距離を縮めようとしているのはトランプ政権への対抗策の一環だろう。

 一方で王氏は台湾について「必ず統一する」とし、「面倒を起こせば日本に問題をもたらす」と日本が関与しないよう警告した。力で台湾を抑え込もうとすればアジアの安全保障にとどまらず、法の支配に基づく国際秩序が揺さぶられる。台湾問題は日本として重大な関心事であると改めて強調しておきたい。