人口減や地域の衰退で税収が落ち込む中、資金運用の利息で歳入増を図ろうとする自治体の姿勢は否定しない。だが公金を運用する以上、リスクを最大限考慮せねばならない。

 災害や税収減への対応など、自治体は特定の目的のために基金を積み立てている。これを積極的に運用する全国の20市に共同通信が取材をした結果、洲本市など10府県16市が含み損を抱えていることが分かった。市場で金利が上昇し、購入した国債などの債券価格が下落したためだ。

 日銀は金融緩和路線の修正に動き出し、今後も金利の上昇が見込まれる。他の自治体も同様の含み損を抱える可能性は否めない。公金運用の現状を精査する必要がある。

 含み損とは、債券の時価が購入価格より下がっていることを指す。満期まで保有すれば損失は出ず利息も入るが、満期を待たずに時価で売却すれば損失が生じる。

 総務省の統計では、今回の20市は主な基金の6割超を債券購入などで運用していた。20~30年先が満期の債券を購入した例も少なくない。低金利下でまとまった利息を得るため長期の運用を選んだとみられる。

 含み損の金額を具体的に明らかにしているのは福岡、愛知、大分各県の4市で、それぞれ10億~40億円台に上る。

 こうした運用手法は、金利が上昇局面に転じれば含み損を生む。加えて、損失が発生する事態を恐れ、いざという時に基金が使いにくくなる点も見逃せない。

 大半の自治体は財政に悪影響を及ぼす可能性はないとするが、災害対応などでの影響が懸念される。実際に昨年の能登半島地震で被災した石川県かほく市の場合、復旧費用に充てるために、含み損が生じている債券の一部を満期前に売却したため、損失が発生したという。

 低金利下では、満期までの期間が短い債券を購入するのが投資の基本とされる。金利が上昇に転じれば、利率の高い債券に資金を移せるからだ。そうした専門知識がない自治体が金融機関の勧めに乗って長期の債券を買い込んだ-との見方も的外れとは言えないだろう。

 2009年には全国の自治体や公益法人で、高リスクの「仕組み債」購入が相次いで表面化した。複雑な内容を理解しないまま、兵庫県内でも多くの自治体で含み損が生じ、議会が市の責任を問う例もあった。見かけの高利率の裏にどれだけリスクがあるかをきちんと認識していなかった点は、今回と似通っている。

 各自治体には資金運用に際し、専門家らに意見を聴いて指針を明確にしてもらいたい。運用実態についても定期的に情報を開示するべきだ。