トランプ米大統領は、輸入自動車と主要部品に25%の追加関税を課す布告に署名した。4月3日に発動する予定で、日本を含む全ての国が対象となる。乗用車を例に取れば、現行の2・5%が27・5%と11倍に引き上げられる。

 日本にとって自動車は経済の大黒柱だ。対米輸出額は年間約6兆円で、米国への輸出額全体の3割弱を占める。すでに米国は自動車の素材となる鉄鋼やアルミニウムに追加関税を発動しており、自動車メーカーには輸出と米国生産の双方で関税の重荷がのしかかる。

 トランプ政権は追加関税の理由に国家安全保障を損なう恐れを掲げるが、日本などは同盟国であり、全く根拠のない不当な主張というしかない。今回の措置で日本の国内総生産(GDP)の実質成長率が0・5%押し下げられ、マイナス成長に陥る恐れも指摘される。日本政府は直ちに撤回を求めねばならない。

 世界貿易機関(WTO)は、貿易相手国が自国に不利な扱いを取った場合の報復関税を認めている。これに基づき、カナダのカーニー首相はさっそく報復措置を検討する考えを示したが、日本政府は見送る構えを見せている。報復の連鎖が始まれば世界経済全体が収縮し、経済摩擦が政治対立に発展する可能性もある。各国と連携して米国の理不尽さに声を上げていくべきだ。

 WTOへの提訴も検討に値する。二審制の最終審に当たる上級委員会の欠員で機能不全が指摘されるが、一審に相当する紛争処理小委員会(パネル)を活用し国際世論を高め、米国の方向転換を促したい。

 懸念するのは、トランプ氏が個別のディール(取引)に持ち込む展開だ。自動車への追加関税は第1次トランプ政権でも掲げており、2019年、日本が米国産農産物への関税撤廃や引き下げで譲歩する日米貿易協定を締結した。その際、安倍晋三首相がトランプ氏に自動車への追加関税見送りを直接確認した-と当時の日本政府は主張したが、「約束」はほごにされ今回の発動に至った。

 追加関税で大きな影響を受けるのは日本だけでなく韓国やカナダ、メキシコ、欧州など、自由貿易を掲げ法の支配と民主主義重視の価値観を共有する国が多数を占める。トランプ氏は米国製造業の復活も唱えるが、輸入コストの増加で自国経済への打撃も避けられない。

 その結果、戦後80年近く続いた自由貿易体制や民主主義陣営の結束を揺るがす事態になれば取り返しがつかない。ロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのパレスチナ攻撃で岐路に立つ国際秩序をさらにかく乱させるリスクを、自覚する必要がある。