元タレント中居正広氏の女性トラブルを発端とするフジテレビの問題を調査した外部弁護士らによる第三者委員会が報告書を公表した。

 女性が同社のアナウンサーだったことを明らかにした上で、トラブルは「業務の延長線上で生じた性暴力で、重大な人権侵害」と認定した。背景には「ハラスメントに寛容な企業体質」があり、類似の被害が全社的にまん延していたと指弾した。フジにとって極めて厳しい内容だ。

 清水賢治社長は「社としての認識が甘く、被害女性に大変つらい思いをさせた」と謝罪した。公表に同意した被害女性の救済を最優先するとともに、組織の解体的刷新に全力で取り組まねばならない。

 報告書によると、2023年6月、中居氏は他のフジ社員も参加すると思わせて女性を食事に誘ったが、実際には誰も誘わず、女性が断るのが困難な状況に追い込んで自身のマンションでの食事に同意させた。女性は有力な番組出演者である中居氏との「圧倒的な権力格差」などから会食を拒否できず、被害に遭った。

 性被害はこうして起きる、という過程が説得力をもって示され、女性の絶望感がひしひしと伝わる。

 信じ難いのは、フジ幹部らの事後対応である。女性から被害報告を受けた際、当時の港浩一社長ら上層部が「プライベートな男女間のトラブル」と即断した。これが誤りの大きな要因となったのは明らかだ。

 さらに、元編成部長が中居氏の依頼で入院中の女性に見舞金名目の現金100万円を届けた他、中居氏に弁護士を紹介し、番組に起用し続けた。第三者委が「女性への口封じ、二次加害行為」に当たるとし、一連の対応は「経営判断の体をなしていない」と批判したのは当然である。

 意思決定に関わったのは港氏と専務、編成制作局長の3人だった。同質性の高い「壮年男性」による閉鎖的な判断が人権意識の欠如を招いたとの指摘に真摯(しんし)に向き合うべきだ。

 報告書は根底にある組織体質にも踏み込んだ。類似事案の調査で、取引先と良好な関係を築くためフジが女性社員を利用していた実態があらわになった。元役員らによるセクハラなども複数認定し、加害者が昇進し、訴えた社員が肩身の狭い思いをする事案も確認された。長年取締役を務めた日枝久相談役がこうした「組織風土の醸成に与えた影響は大きい」とする一方、ガバナンスの機能不全の責任は取締役全員にあると断じた。

 フジは、日枝氏が退任し、女性比率と社外取締役を増やす新体制を発表した。信頼の回復は容易ではない。現場と危機感を共有し、あしき慣習を断ち切る覚悟が問われる。