すべての貿易相手国に対する関税を、10%以上引き上げる-。トランプ米大統領がきのう、「相互関税」の導入を発表した。

 関税率は国や地域ごとに異なり、中国は34%、欧州連合(EU)が20%、日本は24%となる。米国への輸入自動車に対する25%の追加関税を含め、世界経済への影響は計り知れない。中国やEUなどが報復措置に出る可能性も否めず市場心理は悪化し、きのうの東京株式市場の下げ幅は一時1600円を超えた。

 トランプ氏は、米国の巨額の貿易赤字を「生活を脅かす国家非常事態」とみなして関税の引き上げを合法化し、「米国の黄金時代になる」と自画自賛する。関税を引き上げれば自国製品が有利になるというのは、世界各国から部材を調達する製造業の実態とかけ離れた発想だ。

 相互関税が適用されるのは9日の予定で、それまでに税率見直しの「ディール」(取引)に応じる、と各国に誘いをかけているようにも見える。戦後80年近く続いた自由貿易体制は崩壊の危機にひんする。直ちに撤回を求める。

 看過できないのは、トランプ氏が挙げた日本への相互関税の根拠だ。非関税障壁を含め日本が実質的に46%の関税をかけているとし、「(米国車は日本で)ほとんど販売されていない」「(コメに)700%の関税をかけている」などと述べた。

 過去にも日本と貿易摩擦が生じるたびに、米国は、日本政府が自動車に求める安全基準を非関税障壁だと批判してきた。しかし欧州企業の自動車が同じ基準をクリアして日本市場に浸透している点を踏まえれば、必要なのは日本市場に受け入れられるよう、米国車の商品力や販売力を向上させることではないか。

 コメには一定の無関税枠があり、その点を踏まえて現状の仕入れ価格で算出すれば実際の関税率は200%程度にとどまる。そもそも現在の日本の農産物関税は、市場開放を求める米国と交渉し、日本も譲歩を重ねて決まった結果であり、批判される筋合いはない。

 ところが日本政府は、武藤容治経済産業相が関税引き上げの適用除外を米国に申し入れたものの、石破茂首相は「極めて残念で不本意」と述べただけだ。カナダの首相やブラジル政府が批判や非難のコメントを示したほか、トランプ氏と良好な関係にあるイタリアのメローニ首相までが「誤った措置」と指摘したのに比べれば、弱腰の姿勢が際立つ。

 自由貿易体制の維持は日本の国益維持にとって不可欠である。石破首相はその点を改めて認識した上で、正面から米国に強く抗議しなければならない。