韓国の憲法裁判所はきのう、国会に弾劾訴追された尹錫悦(ユンソンニョル)大統領を罷免する決定を下した。2027年5月までが本来の任期だった尹氏は、即時失職した。60日以内に大統領選挙が行われる。
世界に衝撃を与えた尹氏による突然の「非常戒厳」宣言から4カ月。軍の力を使って権力を守ろうとした大統領が、自らを正当化して職にとどまる異常事態が続いていた。この間、保守と革新の対立は一層激しくなった。
尹氏は民主主義のルールを踏みにじったばかりか、政治の混乱と停滞を招き、社会の分断を引き起こした。韓国の対外的な信用を大きく傷つけた。責任は極めて重く、罷免は当然と言える。裁判所の決定を受け入れて反省し、支持者らに冷静になるよう呼びかけるべきだ。
昨年12月に始まった弾劾審判では計11回の弁論が開かれ、戒厳令の正当性が争点となった。
弾劾を求める国会側は、戒厳令を発動して軍や警察を国会に突入させ、議員を逮捕しようとしたことは憲法違反だと訴えた。一方、尹氏は「野党の暴走」で国政運営が困難になり、国家危機を克服するための正当な権力行使であると反論した。
憲法裁判所は尹氏の主張を退け、戒厳令により「民主主義を否定し、憲法を無視した」として違法性は重大だと指摘した。「国民を衝撃に陥れ、社会、経済、政治、外交に混乱をもたらした。国民の信任を裏切った」とも断じた。裁判官8人の全員一致だった。
決定を受けて、尹氏の支持者からは失望や怒りの声が噴出している。今年1月には、暴徒化した一部が尹氏の逮捕状を出した裁判所を襲撃する事件が起きた。6月3日の投開票が有力視される大統領選で、世論の対立が先鋭化しないか心配だ。
国際秩序が揺らぎ、トランプ米政権による高関税が世界経済に打撃を与えつつある。不確実性が高まる中、内政の混乱がさらに長引くことになれば、外交のみならず国民生活にも深刻な影響を及ぼしかねない。与野党は現実路線で協調し、政治の安定化に最善を尽くす必要がある。
尹氏は戒厳令を巡る内乱首謀罪にも問われ、4月14日に初公判が開かれる。与野党の双方に国民の司法不信をあおるような言動が見られる。厳に慎まねばならない。
今年は日韓国交正常化60周年に当たる。尹氏は対日融和に努めただけに、両国関係への影響を懸念する声がある。大統領選の行方は予断を許さないが、日韓は連携を深め、東アジアの安定や少子高齢化などの共通課題に取り組むことが重要だ。日本は働きかけを強めたい。