兵庫県が直営する県立全10病院が、2023、24年度と2年連続で赤字を計上する見通しとなった。過去に類を見ない赤字幅であり、県は「危機的状況」として、25年度から一部の病床を休止する。
背景に横たわる物価高や人件費増は全国的な課題だ。人口減も相まって公立病院の経営難は各地で深刻になっているが、社会保障費が増大する中で国が診療報酬を大幅に引き上げることは期待しにくい。厳しい経営環境を前提に存続への道を探る必要がある。
県病院局によると、24年度の経常赤字は129億円となり、過去最悪だった23年度から38億円拡大する。現状では25年度も123億円の赤字と推計され、県が設けた経営対策委員会の委員は「民間企業でいうと倒産寸前のような状況」と指摘する。
現状のままなら医業収益に対する資金不足比率は25年度にも10%を超え、企業債の発行に国の許可が必要になる。経営の裁量が制約され、医療サービスに響きかねない。
患者数は増えている。24年度の入院患者数や外来患者数は新型コロナウイルス禍前の18年度から14%伸び、病床稼働率も82・1%と18年度並みの水準にある。しかし給与は36%増、薬品などの材料費は41%増と急上昇し、業績を悪化させている。診療報酬の伸びが物価高騰に追いつかないのだ。公立病院の収支悪化は全国的な傾向で、今年1月の総務省調べでは7割が赤字となっていた。
兵庫固有の事情もある。施設の老朽化や医師の安定確保のため県が長年進めてきた統合再編で、巨額の負債を抱えている。高度な設備を備えた新しい統合病院を尼崎や姫路などに設け、借金に当たる企業債残高は24年度決算見込みで1641億円に上る。
一方で留意すべきは、統合再編が医師の確保に一定の効果を上げた点だ。18~22年の人口10万人当たりの医師数の増加を都道府県別に見ると、兵庫は全国3位の高水準にある。病院経営に詳しい城西大学の伊関友伸教授は「(設備などが)新しい県立病院は、コロナ禍の治療体制の確保に力を発揮した」と評価する。医療水準の維持には一定の投資が不可欠であることを指し示す。
経営対策委員会の提言を受け、県は、県立3病院で計130床の休止に取りかかる。医療資源をフルに使わない苦渋の決断である。それでも黒字化見込みは31年度になる。
県立病院は、パンデミック(感染症の世界的大流行)や災害発生時に地域医療の「最後の砦(とりで)」となる。高齢化や人口減少を見据え、いかに持続させるか。医療サービスを受ける地域住民も含めた議論が必要だ。