臓器移植の体制を強化するため、厚生労働省は脳死や心停止後の臓器をあっせんする日本臓器移植ネットワーク(移植ネット)の業務を分割し、機関を複数化することを決めた。国内では移植しか根本的な治療法のない患者が多数待機している。提供の善意や移植の希望に最大限応えられる仕組みにしてもらいたい。

 移植ネットによると、近年は脳死での臓器提供が増加し、2023年の提供数は過去最多の131件に上った。半面、移植ネットのコーディネーターの業務が多忙になり、対応の遅れが指摘されていた。

 厚労省によると、地域ごとに新たな法人を設置し、提供者(ドナー)側の業務を移植ネットから移行させる。提供施設の院内コーディネーターなどとも連携し、家族への説明や同意書の作成などを行う。

 一方、移植ネットは、移植を受ける患者の選定や臓器搬送の調整などの業務に専念する方針だ。

 業務を絞り負担を軽減する狙いは理解できるが、新法人の具体像は見えず現場の懸念は根強い。

 臓器提供を巡っては、10年の改正法施行で本人の意思が不明でも家族の承諾で提供できるようになり、15歳未満の提供も可能になった。家族への最終的な意思確認は移植ネットのコーディネーターが担うが、心が揺れ動く家族への支援で重要な役割を担ってきたのが、都道府県のコーディネーターだ。

 兵庫県では2人の看護師が担い、昼夜を問わず医療機関から連絡を受け、臓器提供に向けた環境整備をしている。県臓器移植コーディネーターの杉江英理子さんは「制度改正で現場が混乱しないよう対策が必要」と話す。

 新法人移行後は、院内と都道府県の両コーディネーターにドナー対応の重責が委ねられる。臓器を提供しない権利を尊重し中立的な調整業務をこなすには事前の研修が欠かせない。提供が円滑に進むよう体制強化も検討するべきだ。

 臓器提供の経験が浅い病院を支援するため、経験豊富な拠点病院が人材を派遣する制度もある。兵庫県では神戸大病院が指定されており、積極的な活用が求められる。

 患者が移植を受ける病院はこれまで腎臓を除き1カ所しか登録できなかったが、他の臓器でも第2希望まで登録できるようにする。地域に偏らず公平に提供されるよう、ルールの厳格化も欠かせない。

 近年は臓器移植への理解が進んだとはいえ、まだまだ諸外国に比べれば提供数は少ない。新法人や行政、医療機関が連携し、提供の意思表示や家族の話し合いを進める機運を醸成していくことが大切だ。