2016年4月14日と16日、観測史上初めて震度7を2度記録した熊本地震の発生から9年となる。熊本、大分両県で災害関連死を含め計278人が亡くなった。教訓は過去の大災害と重なるが、その後の被災地で生かされていない部分も多い。課題への適切な対応が、被害の軽減につながると改めて肝に銘じたい。

 熊本県は昨春、住宅再建、道路や鉄道などのインフラ復旧に一定のめどがついたとして、復旧・復興本部会議を終えた。最大の被害を受けた益城(ましき)町では今年3月、県が進める区画整理事業で全画地の仮換地指定が完了し、大きな節目を迎えた。

 とはいえ、すべての被災者が生活再建の道筋を描けているわけではない。孤立や苦労を強いられる人々をどう支えるのか。高齢化と人口減が加速し、地域や住民間の「復興格差」が広がる懸念がある。行政が切れ目のない支援に努めるとともに、地域社会の見守りも重要となる。

 熊本地震では、避難生活に伴う体調悪化などが原因の災害関連死が8割を占め、建物倒壊など直接の被害で亡くなる人を大きく上回った。その多くは70歳以上で、既往症がある人がほとんどだった。そもそも避難所が足りず、多くの人が壊れた自宅や車中で過ごした。そうした被災者には支援物資や情報が行き届かない実態も浮き彫りになった。

 昨年1月の能登半島地震でも災害関連死の認定が相次ぎ、直接死を超えた。高齢者や障害者ら配慮が必要な人への医療・福祉支援の強化などの対策が一層求められている。

 政府の作業部会が先月に公表した南海トラフ地震の新たな被害想定では、最大1230万人の避難者を見込む。災害関連死が同5万2千人に上るとの試算も初めて示された。

 阪神・淡路大震災以降、予防が課題となってきたが、対策は遅々として進んでいない。超広域の災害のため、従来のような外部からの支援が難しく、十分なケアを受けられずに亡くなる人が増えかねない。

 政府は昨年末に避難所の運営指針を改定した。1人当たりの面積やトイレの数など改善し、国際基準「スフィア基準」を反映させるよう自治体に促している。「救える命」が失われることのないよう、官民の連携体制を整えておくことも大切だ。

 南海トラフ地震に限らず、災害はいつ起きてもおかしくない。被災者が使う携帯・簡易トイレ、食料、水などの物資は備蓄できているか。避難所運営や被災者支援のノウハウは共有されているか。減災へ平時から取り組みを強化する必要がある。

 住宅の耐震化や避難経路の確認など、私たち一人一人も命を守るための備えを着実に進めたい。