政府、与党は物価高やトランプ米政権の高関税政策に対応する経済対策として夏場の電気・ガス代の補助を検討する。2025年度予算の予備費を充て、補正予算は組まない。
与党内では全国民一律の給付金が浮上したほか、野党も含め消費税減税を求める声が強まっていた。自民党の森山裕幹事長は「赤字国債を出さない範囲」と歳出膨張にくぎを刺しつつも、今週初めに補正予算案の編成を明言したばかりだ。
だが、一律給付には「選挙目当てのばらまき」との批判が高まった。消費税減税には膨大な政治的エネルギーが要る。国会審議が必要な補正予算編成は見送り、予備費での対応にとどめたのだろう。二転三転する米国の関税措置に振り回され、政権の足腰の弱さがあらわになった。
与党内では、ガソリンやコメの価格引き下げが取り沙汰される。消費税減税や給付金を求める動きも収束するとは考えにくい。夏の参院選や6月の東京都議選を見据えれば、国会で歳出膨張の圧力が高まる懸念がある。費用対効果や財源確保をきちんと見据えた議論をするべきだ。
経済対策を巡る議論は、米国の相互関税発表を受け今月7日に東京株式市場が暴落したことから熱を帯びた。連立与党・公明党の斉藤鉄夫代表は消費税減税に加え、実現までの現金給付を政府に求めた。日本維新の会の吉村洋文代表は2年間限定での食料品非課税を唱えた。
立憲民主党では減税派と財政規律重視派の対立が激しさを増す。前身の民主党が、消費税を巡り党内分裂に陥った経緯を思い起こさせる。
与野党ともに減税派は時限措置と強調するが、引き下げた税率を再び上げるのは容易ではない。財源には赤字国債を充てればいいとの意見が出ているが、国の借金をさらに積み上げ、次世代への負担を増やすことは看過できない。
そもそも、関税を巡る日米の政府間交渉が始まらないうちから経済対策を求める声が巻き起こることに違和感を覚える。減税の口実に関税を利用したと見られても仕方ない。
消費税は国民の暮らしを支える社会保障の財源だ。食料品の税率をゼロにすれば年間約5兆円の税収が失われ、医療や福祉に充てる財源が減る。給付金は過去にも景気対策などとして実施されたが、貯蓄に回るなど効果は乏しかった。こうした点を納税者も認識しておきたい。
赤沢亮正経済再生担当相はきょう、ベセント米財務長官らとの協議に臨む。不合理な関税引き上げには断固抗議するとともに、日本の企業や消費者に与えるマイナスを最小限にして国益を守り抜けるよう、全力を尽くさねばならない。