兵庫県の斎藤元彦知事らがパワハラなどの疑惑を告発された文書問題で、県の第三者調査委員会が報告書を公表して1カ月が過ぎた。県政の「正常化」はいまだ見通せない。

 第三者委は、文書を公益通報と扱わずに告発者を特定するなどの県の対応は公益通報者保護法に違反し、文書の作成・配布を理由に元西播磨県民局長(故人)を処分したのは無効とした。これに対し、知事は「報告書を真摯(しんし)に受け止める」と言いながらも、「対応は適切」「専門家でも意見が分かれる」と従来の主張を変えていない。

 元裁判官ら6人でつくる独立性の高い第三者委は、知事自身が設置を決めた。にもかかわらず、自分の意に沿わない指摘を拒み続けている。調査自体を軽んじるような対応が、混乱の収拾を阻んでいるのは明らかだ。知事は報告書の内容を受け入れ、速やかに元県民局長の懲戒処分を撤回し、謝罪すべきである。

 第三者委が3月19日に発表した報告書は、元県民局長が報道機関などに配布した文書は公益通報者保護法における外部通報に該当すると認定した。当事者である知事らが通報者を捜し出し、通報者の公用パソコンを引きあげた行為などは同法に照らし「違法」と断じた。

 県は懲戒処分の理由に、「職務専念義務違反」など他の非違行為も挙げる。第三者委は、これらに関して処分は無効とは言えないとする。だが、知事らによる通報者探索が違法とされた以上、文書配布を理由とした処分を取り下げ、改めて検討するのが筋だ。

 第三者委は知事のパワハラ行為として10件を認定した。知事が昨年3月の記者会見で元県民局長を「うそ八百」「公務員失格」と非難した発言もパワハラに当たるとした。

 知事はこれを認め謝罪したが、自らの処分には触れず、元県民局長への発言も撤回しない。ハラスメント防止の研修も公務の都合などを理由に受けていない。職員のパワハラ行為は懲戒処分指針に基づき、減給などの処分がされてきた。不公平とのそしりは免れまい。率先して襟を正すのがトップの姿勢だろう。

 知事としての資質を疑う言動はほかにもある。今年3月の会見で、知事は元県民局長のパソコンにあった私的文書について「倫理上極めて問題がある」などと言及した。県幹部は議会で「(処分理由として)特に説明する必要のない内容」との認識を示している。告発者を不当におとしめる発言にほかならない。

 今の県政は「違法状態」が続いている。自ら姿勢を改め、責任を明確にしなければ県政の混乱は収まらない。知事に自覚を求める。