阪神・淡路大震災の発生から30年が過ぎ、震災を知らない世代に何をどう継承するかが問われている。今年の神戸新聞平和賞が、その難しい課題に挑む市民グループ「語り部KOBE1995」に決まった。

 今年で結成20年。震災で肉親を亡くした遺族、避難所運営に奔走した元教師、研究者らで構成し、年齢層は30~80代と幅広い。神戸を拠点に全国の小中学校などに出向き、1万人超に経験を伝えてきた。

 大事にしているのは「生の言葉」だ。息子を亡くした父の癒えない悲しみ、震災当日に生まれた若者の使命感、それぞれの体験と強い思いから発する語りが聴く人の心に響く。

 2022年に代表を引き継いだ小学校教諭長谷川元気さん(38)は当時小学2年生で、たんすの下敷きになった母と末の弟を亡くした。同じ苦しみを味わってほしくないと、耐震化や家具固定の重要性とともに、後悔しないように感謝の気持ちを言葉にすることの大切さを説く。

 他者の痛みを自分ごととし、世代を超えてバトンをつなぐ。こうした活動が続く限り、被災地の記憶が消えることはないだろう。

 社会賞は、旧優生保護法下で障害を理由に不妊手術を強いられた兵庫の被害当事者と支援団体に贈られる。筆舌に尽くし難い過酷な体験を公にすることで社会を動かした。

 全国の被害者とともに国に損害賠償を求める裁判を闘い、昨年、旧法を違憲と認めて国に賠償を命じる最高裁の統一判断を勝ち取った。根深い差別と偏見の実態を身をもって世に問うた原告らの勇気と、支え続けた人々の献身に敬意を表したい。

 ここで、兵庫県が旧法を推進する県民運動(1966~74年)を展開し、当時の神戸新聞社も運動を評価する社説などを掲載した事実にも言及しておかねばならない。その反省を忘れず、報道機関として差別の根絶に力を尽くすことを改めて誓う。

 文化賞は、イチローさんら多くのプロ野球選手のグラブ作りを長年手がけたミズノテクニクス波賀工場の岸本耕作さん(67)=宍粟市。難易度の高い要望に応じ、常に最高峰の技を追求してきた。近年は技術の継承と後進の育成にも力を注ぐ。

 スポーツ賞は昨夏のパリ五輪男子高飛び込みで銀メダルを獲得した宝塚市出身の玉井陸斗さん(18)。重圧の中、完成度の高い「ノースプラッシュ」の技を決めて劣勢をはね返した。伸び盛りのエースに次期ロサンゼルス五輪への期待も高まる。

 努力を惜しまず私たちに感動や気づきを与えてくれた方々の姿は、苦難の時代を照らす一筋の光である。その功績を胸に刻み、よりよい地域社会を共に目指していきたい。