政治は、いつまで怠慢を続けるのか。結婚後も婚姻前の姓を名乗り続けられる選択的夫婦別姓を巡る議論は出尽くした。今国会で実現に道筋をつけるべきだ。
立憲民主党は4月末、制度導入に向けた民法改正案を衆院に提出した。夫婦は婚姻時に同姓か別姓かを選ぶとともに、子どもの姓を決めるとしている。きょうだいの姓は統一する。法制審議会が1996年に制度の法制化を答申した案に沿う内容となっている。
2022年、立民を含む野党5党は制度導入に向けた法案を共同提出した。その際は子どもの姓を決めるのを「出生時」としたが、国民民主党などから「きょうだいで姓が異なるケースが出かねない」との指摘があることを踏まえ、「婚姻時」に変更した。
だが野党の足並みがそろわない。国民民主は22年の野党法案の共同提出に加わり、24年衆院選では選択的夫婦別姓導入を公約に掲げた。にもかかわらず、玉木雄一郎代表は今年4月の会見で「家族は同じ姓を名乗るのが原則」と発言を後退させた。
夏の参院選を前に、保守層にアピールする狙いのようだが、突然の変節に失望する有権者がいてもおかしくない。党としては導入に賛成の立場ながら立民の案からは距離を置き、今国会に独自案を提出する方針という。党内論議が深まっているとは言い難く、本気度が問われる。
日本維新の会は24年衆院選の公約を踏襲し、旧姓の通称使用を法定化する法案を今国会に提出すると表明した。しかし、それでは根本解決にはならない。戸籍上の姓と使い分ける負担は変わらず、不便や不利益は女性に偏っている。
選択的夫婦別姓は法制審議会の答申以降、国会で30年近くもたなざらしとなっている。政府や共同通信社の世論調査では、幅広い世代で導入賛成が多数を占める。もはや時代の要請であるにもかかわらず実現に至らないのは、自民党内の保守派が「家族の絆が弱まる」などと強硬に反対しているためだ。今も党内の意見集約には至っていない。
自民の保守派をはじめ、選択的夫婦別姓に反対する理由の一つに「子どもへの悪影響」を挙げる人は多い。3月の参院予算委員会で三原じゅん子こども政策担当相は、選択制を導入した他国の状況を問われ、「悪影響があることを証明する情報には接していない」と述べた。政府の見解ははっきりしている。
夫婦同姓しか認めない現行法は、女性に対する差別を温存、助長すると指摘されてきた。別姓希望者への差別とも言える。政治は真摯(しんし)に受け止め、是正へ責任を果たすときだ。