新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類になってから2年が経過した。暮らしはおおむね日常を取り戻したが、多くの命が失われ社会経済活動もまひした事態を再び招かないよう、教訓を新たな感染症危機への備えに生かさねばならない。

 新型コロナ禍で医療体制が逼迫(ひっぱく)した経験を踏まえ、2022年成立の改正感染症法で「医療措置協定」が創設された。都道府県は医療機関と協議して発熱外来や入院病床の確保、自宅療養者への対応を決め、昨年9月末までに協定を結んだ。

 兵庫県では発熱外来、入院病床ともに目標値を達成しているが、さらに実効性を高めてもらいたい。

 新型コロナ禍では重症患者を受け入れる病床が不足した。要因の一つは入院が長期化し、新たな患者の受け入れが滞ったことにある。重症患者を診療した神戸市立医療センター中央市民病院の木原康樹院長は「平時から病院間の関係づくりに努め、流行時の患者の受け入れや症状に応じた転院をスムーズに行えるようにしておく必要がある。行政や医師会の支援が欠かせない」と指摘する。

 懸念材料は、新たな感染症の重症患者を中心的に受け入れる公的病院は近年、経営難に見舞われている点だ。県立病院では一般病床の縮小を余儀なくされ、感染拡大時のさらなる機能低下が懸念される。持続可能な地域医療体制を築くために、連携や役割分担をさらに深めてほしい。

 重症患者に対応する病院は、平時は重篤者向けの救急医療(3次救急)を担っている。パンデミック(世界的大流行)の際に救急医療が切迫しないよう、後方支援の体制も整えておくべきだ。

 兵庫県は、病状の重症化を抑える方策として、往診による早期治療の強化を打ち出す。ただ、訪問の担い手は発熱外来を担当する医療者が中心となる。流行初期からすぐに活動できるよう、防護や隔離の実践的な訓練、研修を平素から重ねることが求められる。

 私たちも平時から感染対策に取り組み、大きな流行に備えたい。

 現在、新型コロナは下火になっているが、後遺症に苦しむ人へのケアは引き続き重要となる。急性呼吸器感染症などの流行が拡大し、子どもを中心に激しいせきが続く「百日ぜき」は急激に増えている。定期接種前の乳児らは注意が必要だ。

 ほとんどの感染症は、うがいや手洗い、換気などの基本的な対策が有効だ。高齢者施設や医療機関などではマスクを着用する配慮も欠かせない。重症化のリスクがある人を守るとともに、社会経済活動の維持へ万全の対策を講じる必要がある。