兵庫県の告発文書問題で、文書を作成した元西播磨県民局長(故人)の公用パソコンに記録されていたとされる私的情報が交流サイト(SNS)などで拡散されたことを受け、経緯を調べた県の第三者調査委員会が調査結果を公表した。報告書は「職員が県保有データを漏えいした可能性が極めて高い」と結論づけたものの、特定に至らなかった。

 県は地方公務員法(守秘義務)違反の疑いがあるとして、容疑者不詳のまま県警に告発状を提出した。県警が受理の可否を判断する。

 重要なのは情報セキュリティーの脆弱(ぜいじゃく)性など、第三者委が流出の責任は県にあると指摘したことだ。斎藤元彦知事は「重く受け止めなければならない。県民に心配をおかけして申し訳ない」と語ったが、投稿の削除要請などには「法的なハードルが高く、難しい」と消極的だ。

 個人のプライバシーがネット上で侵害される異様な状況が半年近く続いている。知事はこれまで「ネット情報と県保有の情報が同一かを確認するのが先」と主張してきた。第三者委が同一性を認定した以上、誹謗(ひぼう)中傷を黙認するような姿勢を改め、踏み込んだ対策を急ぐ必要がある。

 元県民局長の公用パソコンに記録されていたとされる情報は、政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志党首が昨年11月下旬にSNSに投稿し、拡散された。

 第三者委はこれを受けて県が今年1月に設置した。問題は、知事に批判的な報道をした週刊文春の記事についても情報源を調べるよう依頼していた点にある。

 報告書は立花氏らの投稿データと同様に「県の保有情報と同一性がある」と認定したが、情報の提供経路は特定できなかったとした。

 取材源の秘匿は、情報提供者の信頼を得て事実を報じるために不可欠だ。公権力による情報源の特定は、国民が有益な情報を得るための知る権利や取材・報道の自由を脅かすおそれがある。組織を萎縮させ、内部告発を封じてしまう懸念も大きい。

 第三者委への依頼はこの原則への配慮に欠ける。知事は会見で、調査対象は担当課が判断し、自らは指示をしていないと繰り返してきたが、調査の最終責任は知事にある。

 県は、第三者委の調査で立花氏や文春への情報提供が公益通報に該当しないと結論づけられたことから刑事告発したとするが、公権力が情報源を暴こうとする行為は厳に慎まねばならない。

 知事は告発文書問題を巡っても、公益通報者保護法を所管する消費者庁の見解や助言を受け入れない。そうした対応が県政の混乱を長引かせていることを自覚するべきだ。