日本学術会議を来年秋に現行の「国の特別機関」から特殊法人に移行させる法案が自民、公明両党と、日本維新の会などの賛成で衆院を通過した。立憲民主、国民民主など他の野党は反対し、学術会議は総会決議で法案修正を求めている。
法案には運営、財源両面で、政府の介入が強まると批判されても仕方がない内容が含まれる。参考人として国会に出席した梶田隆章・東大卓越教授は「学術会議の同意を得ないまま組織を変更するもので、独立性や自律性に多大な影響を与える」と苦言を呈した。
懸念を放置したままでは、科学への信頼と国の将来に禍根を残す。与野党は参院の審議で問題点を洗い出し、学問の自由と独立を守るために必要な修正を実現するべきだ。
法案は、首相が新会員を任命する選考方式をやめ、総会で決議する形に変える。一方で、現行法の「独立して職務を行う」の文言を削除し、政府が介入する余地を幾重にも組み込んだ。外部有識者による「選定助言委員会」が会員選考に意見を述べ、首相が任命する「監事」や「評価委員」が業務などを監査、審議する仕組みも新設される。
現在は財源として年間約10億円の国費が予算化されているが、法案は政府が必要と認めた金額を補助するとした。政権の意向に左右され、財政基盤が不安定になる恐れが生じる。政府は「法人化で独立性が明確になる」と説明するが、学術会議側が警戒を強めるのは当然だろう。
学術会議は1949年に設立され、戦争に科学者が加担した過去への反省から、声明などで軍事研究に慎重な方針を堅持してきた。時に政府方針と相いれない提言も辞さない学術会議への反感は、政府、自民党内でたびたび表面化した。
2020年には菅義偉首相(当時)が、学術会議の会員候補のうち安全保障関連法などに批判的とされた6人の任命を拒否し、対立が深まった。政府は拒否の理由を説明しないまま、「会員選考の過程が不透明」として組織の見直しに論点をすり替えた。相互不信が高まる中で真摯(しんし)な協議ができたかは疑問である。
法案には会員の解任に関する規定も設けられた。政権の意に沿わない学者の排除など任命拒否と同じことが可能になるのではないか。
「文化国家の基礎」「平和的復興への貢献」などの理念を掲げた前文が削除されるのも気がかりだ。
研究者が権力と距離を置き、良心に基づいて真理を探究してこそ、科学は進歩し社会や経済に貢献する。参院では、歴史の教訓と国の未来を見据えて学術会議の存在意義を再確認する議論が必要だ。