高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁に中国が猛反発している。日中両政府はこれ以上の対立激化を招かないよう冷静に対話を重ね、沈静化を急がねばならない。
首相は7日の衆院予算委員会で、中国が台湾に侵攻する「台湾有事」に関し、「戦艦を使い、武力の行使も伴うのであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」と答弁した。これまでの政府見解を踏み越える不用意な発言と言わざるを得ない。
存立危機事態は、安倍政権下の2015年に成立した安全保障関連法で新たに規定された。日本が直接攻撃を受けていなくても、密接な関係にある他国が攻撃された際に「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と政府が認定すれば、集団的自衛権の行使が可能になる。
他国間の戦争に加わる道を開き、憲法9条が定める専守防衛に反する「違憲性」も指摘されている。
歴代首相は、国会で問われても存立危機事態と台湾有事の関連について明言を避けてきた。日中間の緊張を高めるだけでなく、手の内を明かせば抑止力を低下させる恐れがあるとの判断からだ。実際、今回の首相答弁は中国側が強気の対抗措置を繰り出す火種となっている。
首相はその後、「最悪のケースを想定した答弁」と釈明し「従来の政府見解と変わらない」と軌道修正した。「今後は特定のケースについて明言を慎む」とも述べたが、今回の発言は撤回していない。
一方、中国側の反応も過剰というほかない。訪日の自粛や日本への留学を慎重に検討するよう求める勧告を次々に打ち出している。日本の治安が悪化し中国人に対する犯罪が多発しているといった根拠のない主張は、民間の人的交流をも萎縮させかねない暴論であり容認し難い。
首相は10月末、習近平国家主席との会談で「戦略的互恵関係」を確認し、関係改善の糸口をつかみかけたところだ。双方の不用意な言動でその好機を逸するのは、日中はもちろん東アジアの安定と発展にとって損失でしかない。両国政府は緊密な意思疎通を図り、事態の悪化を防ぐ対応に徹する必要がある。
首相は就任前から「台湾有事は日本有事」と公言し、安保関連3文書の見直しなど防衛力の強化にも前のめりだ。だが今回の答弁を巡り世論の賛否は拮抗(きっこう)している。タカ派的な自身の支持層に軸足を置くのはバランス感覚に欠ける。持論に固執せず慎重な言動を心がけてもらいたい。
多様な価値観を尊重する平和国家の首相として、有事を起こさない外交努力にこそ力を尽くすべきだ。
























