政府はパートらの厚生年金加入拡大を柱とする年金制度改革法案を国会に提出した。きょうから衆院で審議が始まる。年金制度の仕組みや課題を国民に丁寧に説明し、理解を求める必要がある。
もともとは3月に提案予定だったが、夏の参院選への影響を懸念する自民党議員らが抵抗し、負担増や給付減につながる項目を見送るよう要求したため、大幅に遅れた。与党の都合で重要法案の審議時間を逼迫(ひっぱく)させる事態にはあきれるほかない。
年金制度は高齢者を支える命綱である。今回の改革の目玉は基礎年金の底上げだったが、法案から削除された。運用に余裕のある厚生年金の積立金を充て、全ての人が受け取る基礎年金を増額する当初案に対して、自民党参院議員らが「流用だ」などと非難した。
現役世代の減少に伴い、基礎年金の受給水準は30年後に約3割減る恐れがある。底上げ案の見送りで最も打撃を受けるのは、非正規や低賃金で働く人が多い「就職氷河期世代」だ。この世代が65歳を迎える2040年前後に向け早急に手を打たねばならず、野党が「骨抜きだ」と批判を強めるのは当然と言える。
国会審議の時間は限られるが、与野党で議論を深め、必要な対策を盛り込んだ修正案を目指すべきだ。
野党も、選挙にらみの小手先の議論に終始してはならない。物価高対策として消費税引き下げを主張しているが、消費税は年金制度を支える重要財源でもある。代わりの財源を明確に示さないようでは到底、国民の支持は得られまい。
現政権は少数与党が運営し、法の成立には野党の協力が不可欠だ。与野党は5年後の改革時期を待たず、協議を続けてもらいたい。
今国会で政府が目指す厚生年金の加入者拡大にも課題は残る。
法案は、働く時間を抑えて保険料負担を避ける「106万円の壁」を3年以内に撤廃し、労働時間が週20時間以上であれば収入にかかわらず厚生年金に加入できるようにする。従業員51人以上の企業要件も27年10月から段階的に緩和し、35年10月に撤廃する。新たに180万人が加入する見込みだ。
加入者増は、パートら短時間労働者の低年金や企業の働き手不足の緩和につながるが、保険料の負担が生じるデメリットもある。政府は企業が保険料の一部を肩代わりし、その分を還付する3年間の特例措置を検討するが、労使双方に制度改革への理解を促す取り組みが欠かせない。
週20時間の労働時間が新たな「壁」になる恐れもある。持続可能な年金制度像を示し、国民の信頼を得ることが政治の責務だ。