石破茂首相はきのう、「コメは買ったことがない」などと発言した江藤拓農相を更迭した。後任には、自民党農林部会長の経験を持つ小泉進次郎党前選対委員長が就いた。
単なる失言では済まされない。生活に不可欠の主食が高騰する異常事態はいっこうに収まらない。高くて買えず、そもそも店頭で見かけないなど、コメ流通の現状に国民が抱く危機感を、所管の大臣が理解していない証拠だ。
当初、首相は江藤氏を続投させる方針だった。しかし、農相不信任案を国会に提出する動きが野党内で加速し、交代させなければ年金制度改革法案などの成立が危うい状況に陥ったため方針転換した。政権運営能力に疑問を抱かせるような状況判断のまずさだ。
凶作でもないのに店頭からコメが姿を消し、値段が跳ね上がった。人為的な要因があるのは明白だ。食料安全保障に関わる事態であり、政府は農相交代を契機に政策を総動員してコメの安定確保を実現させなければならない。
これまで計2回放出した20・8万トンの備蓄米のうち、農林水産省の調査では小売店などに約1割しか行き渡っていない。コメの販売価格も高止まりが続き、備蓄米放出の政策効果はまだ見えない。
備蓄米の流通では、卸売り段階での経費や利益などの上乗せ額が通常のコメの最大3倍超となっている。備蓄米を放出すればそれで良しとするのではなく、消費者に適切な価格で届くよう目を光らせるのが農政の責務である。
今後の備蓄米放出は流通段階のコストや時間を減らすため、卸売業者を経由せずに集荷業者が小売業者に直接届ける優先枠を設ける。落札分と同量のコメを買い戻す期限も1年から5年に延ばす。
コメ流通の実態を把握しているはずの農水省が、なぜ当初からこれらの点を盛り込めなかったのか、理解に苦しむ。
これまでの放出は9割以上を全国農業協同組合連合会(JA全農)が落札した。全国各地に備蓄米を行き渡らせるには、幅広いコメ関連業者が参加できるような制度設計も考えるべきだ。
首相はきのうの党首討論で「コメは(5キロ)3千円台でなければならない」と述べ、コメ増産の必要性を認めた。米価維持のため減反を続けた結果、コメの生産力は低下し担い手不足や耕作放棄地の増加を招いている。今回の価格高騰も長期的な供給不足への懸念が背景にある。政府はコメ政策を刷新し、主食の安定供給と、担い手の所得水準の向上を両立させなければならない。