イスラエル軍は、パレスチナ自治区ガザの北部と南部で大規模な地上侵攻を始めた。子どもや女性を含む多くの命が連日奪われている。

 ネタニヤフ首相は、ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの壊滅を主張し、自治区の3分割や住民の強制移住といった計画を進める。いずれも国際法違反であり、断じて容認できない。

 イスラエルはただちに蛮行をやめ、恒久停戦に踏み切るべきだ。

 今年1月に一時停戦が実現し、2023年10月以来の戦闘で疲弊したガザ市民は安堵(あんど)の表情を見せていた。人々の絶望を思うと胸が張り裂けるようだ。

 飢餓もまん延し、国連はガザで約1万4千人の乳幼児が死にひんしていると推計する。イスラエルは侵攻拡大の翌日、2カ月半ぶりに支援物資の搬入を再開したが、全く足りていない。病院の破壊や医薬品不足も住民の健康悪化に拍車をかける。

 ガザは07年以降、イスラエルによって完全封鎖され、食料や医療の提供は、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)などがかろうじて維持してきた。だが、イスラエルは今年1月、UNRWAはハマスと内通しているとの口実で活動を禁じる法を施行した。

 人道危機の深刻化に、国際社会は非難を強めている。これまでイスラエルを擁護してきた英国や欧州連合(EU)は、自由貿易協定を見直す可能性を示唆した。日本も各国と協調して圧力を強め、制裁の選択肢もためらうべきではない。

 悲惨な状況を招いた責任は、米国に負うところが極めて大きい。今月に中東を訪問したトランプ大統領は、サウジアラビアなどと投資獲得の交渉を進める一方、イスラエルは素通りした。

 強硬路線のネタニヤフ氏との関係悪化も指摘されるが、米国からの武器提供は現在も続き、ガザへの攻撃に使われている。「われ関せず」の姿勢は不法行為の容認に等しい。トランプ氏は停戦へ向け影響力を最大限に行使すべきである。

 パレスチナの和平実現には、イスラエルとパレスチナの共存を図るのが唯一の解決策だ。「2国家共存」は1993年のオスロ合意の決定事項でもある。しかし、イスラエルはパレスチナ自治区のヨルダン川西岸と東エルサレムへの入植を続ける。これも国際法違反であり、国際社会が黙認を続ければ2国家共存への道はさらに遠のく。

 イスラエルの入植政策に対し、国際司法裁判所は速やかにやめるよう勧告的意見を出している。各国が団結し、法の支配を回復させることも問題の解決に欠かせない。