大手製造業による大規模な人員削減計画が相次いでいる。

 米国の高関税政策をはじめ、世界経済の先行きが不透明なため、経営体力があるうちに組織をスリム化する狙いがある。ただ日本は今、デフレ経済からの完全脱却ができるかどうかの分岐点にある。リストラは雇用環境に大きな影響を及ぼし、経済成長の芽を摘みかねない。従業員の力を最大限生かしつつ、新たな発想で製品開発や投資にも力を入れるべきだ。

 パナソニックホールディングス(HD)は、早期退職の募集など国内外で約1万人を削減すると発表した。効率的な体質に再構築しなければ収益力が改善せず、持続的な成長が見込めないという。楠見雄規社長は「10年後、20年後も顧客や社会への責任を果たし続けるために経営改革を進める」と話す。

 兵庫県内には神戸市西区や加東市、淡路島などにグループの拠点がある。人員削減による地域経済や雇用への打撃が懸念される。従業員への対応、取引先や自治体などとの調整を密にすることを経営陣に求めたい。

 東京商工リサーチによると、上場企業の早期・希望退職者数は今年1月から5月15日までに既に9千人近くに上り、前年同期の約2倍に急増している。

 さらに、巨額の赤字に転落した日産自動車は2027年度までに国内外の7工場を閉鎖し、2万人を削減すると発表した。液晶パネルメーカー「ジャパンディスプレイ」は1500人程度の希望退職を募り、マツダも事務職など50代以上の正社員を対象に転職希望者500人を募るなど動きは拡大している。

 自動車などの製造業は国内総生産(GDP)の2割を占める基幹産業だ。大手に多くの下請け企業が連なるなど裾野も広い。リストラの余波は今後、中小や地方にも及ぶだろう。

 世界情勢が不安定化する中、景気の変動に耐えられる体質強化を急ぐ必要がある。だからといって、安易な人員削減は許されない。これまでの仕事を離れ、より付加価値の高い仕事を習得するにはリスキリング(学び直し)などの支援体制が不可欠だ。企業全体の生産性を上げていくためにも、経営者は人への配慮を怠ってはならない。