政府は2025年度を目標としていた国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字転換時期を、「25年度から26年度」に改める方針だ。6月にもまとめる経済財政運営の指針「骨太方針」に盛り込む方向で与党と調整する。
借金を増やさないのが借金を減らす第一歩となる。社会保障や公共事業などに充てる政策経費から税収などを差し引いたのがPBであり、黒字になれば政策に充てる新たな借金はせずに済む。国と地方で1千兆円超の債務を抱える財政を立て直すには、PBの黒字化は必達だ。
しかし政府は以前もこの目標を、20年度から25年度に後退させている。今回、政府は「26年度」を含めることで目標時期に幅を持たせたが、事実上の後退には違いない。「25年度」の文言を残したのは、財政健全化への姿勢が後退したわけではないとの意思を示す狙いだろう。目標の先送りが続くと、そもそも守る気があるのか疑われても仕方ない。
今回の目標後退は、米トランプ政権の関税政策に伴う国内景気の悪化で税収減や大型経済対策が予測されるためとされる。
だが主因は、トランプ政権発足前の昨年12月に石破政権が成立させた総額13兆9千億円の24年度補正予算にある。25年度に執行される施策も多いため、内閣府は今年1月、25年度のPBが4兆5千億円の赤字になると試算していた。
編成期間の短い補正予算は、当初予算に比べ査定や国会での議論が甘くなりがちだ。政策の中身を吟味せずに規模を膨らませる手法は歴代政権の定番となっており、これではPBの黒字化など望むべくもない。
昨年6月の「骨太方針」は、新型コロナウイルス禍で緩んだ歳出構造を「平時」に戻すと宣言したばかりだ。しかし石破政権は、25年度も補正予算を編成する意向をにじませる。夏の参院選も見据えれば、歳出膨張の懸念は尽きない。
見逃せないのは、PBの黒字化を達成した場合に国民への還元策を政府が検討しようとしている点だ。
PBが黒字でも政策経費を税収で賄えるにとどまり、過去の国債の元金や利子の返済には新たな国債が必要になる。その額を少しでも減らすには、PBの黒字分は国債の返済に充てるのが筋だろう。
トランプ政権が高関税措置や減税を掲げると、財政悪化への懸念から米国債の価格は急落した。コロナ禍対策で各国の債務が膨らみ、金融市場は財政構造に厳しい目を向ける。政府は財政再建の目標時期をずらして帳尻を合わせるのではなく、歳出削減に取り組む本気度が問われていることを肝に銘じねばならない。