韓国の大統領選は革新系最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)前代表が勝利し、きのう就任した。3年ぶりの革新政権が、今後5年間の国のかじ取りを担う。

 保守系与党「国民の力」の金文洙(キムムンス)前雇用労働相は、序盤からの劣勢を覆せなかった。昨年12月に「非常戒厳」を宣言した尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領の評価が主要争点となり、尹氏の罷免に金候補が反対した点も支持者の離反を招いた可能性がある。

 非常戒厳以降、韓国は政治の混乱と経済の停滞が続く。もともと支持政党が保守か革新かで社会が分断している上に、中傷合戦となった選挙が亀裂を深めた。新大統領には、まず内政を安定させ、国民融和のためにあらゆる努力をしてほしい。

 李氏は時に過激な言動で物議を醸しながらも、保守派や資本家を相手に闘うイメージが定着し、根強い支持を得ていた。大統領の権力は強大で、国会の過半数を「共に民主党」が占めるだけに、少数意見に耳を傾ける姿勢が求められる。複数の刑事裁判を抱え、政権の不安定要素となりかねないのも懸念材料だ。

 有権者の関心が高かったのは経済政策である。韓国では2025年1~3月期の実質国内総生産(GDP)が当初予想に反してマイナスになるなど景況感が悪化している。トランプ米政権の高関税策にどう対処するかも大きな課題だ。

 成長策として、李氏は人工知能(AI)や半導体、再生可能エネルギーなどの分野に積極投資を行うとしている。国産AIの開発に意欲を見せる。同時に、かって人権派弁護士として弱者救済に取り組んだ経歴から、経済格差是正への期待も高まりそうだ。成長と分配の両立が厳しく問われよう。

 内政の混迷による外交の空白期間を取り戻す努力も欠かせない。

 李氏は尹政権の対日融和策を非難してきた。だが選挙では日本を「重要な協力パートナー」と位置付け、就任演説で「堅固な韓米同盟を土台に韓米日協力を強固にする」と述べた。中国とロシアが権威主義を強め、北朝鮮が核・ミサイル開発を進めるなど東アジアの安全保障環境が厳しさを増す中、韓国世論の変化を反映したものと言える。前向きに受け止めたい。

 日本と韓国は多くの課題を共有している。自国第一主義に走る米国への対応をはじめ、内政では少子化や首都圏への一極集中などに直面する。両国首脳はシャトル外交などを通して対話を重ね、多分野での連携を深める必要がある。国際社会においては、平和、民主主義、自由貿易を守るために、多国間協調の先導的な役割を果たすことが重要だ。