摘発実績を上げるため規制の解釈を曲げ、無実の人を容疑者に仕立てる。事件の「捏造(ねつぞう)」とすら言える捜査の実態が控訴審で認定された。

 病根は極めて深いと言わざるを得ない。捜査当局は上告を断念して一刻も早く関係者に謝罪し、警察、検察双方の対応の問題点や背景などを徹底検証しなければならない。

 生物兵器製造に転用可能な噴霧乾燥装置を輸出したとして、外為法違反容疑で機械メーカー「大川原化工機」の社長らが2020年に逮捕された冤罪(えんざい)事件を巡り、社長らが国と東京都に賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は一審に続き警視庁公安部による逮捕と東京地検による起訴を違法と結論付けた。

 規制対象となる噴霧乾燥装置は、内部の滅菌・殺菌が要件の一つだ。社長らはそのための機能はないと繰り返し訴えたにもかかわらず、警察も検察も追加捜査を怠ったと一、二審とも認定した。

 さらに、控訴審は一審判決より踏み込み、容疑成立の判断に「合理的な根拠が欠如している」と断じた。

 輸出規制省令の解釈権を持つ経済産業省の担当者は当初、同社の装置を規制対象とする警視庁の見解に否定的だったことが新証拠で判明する。しかし、捜査側は独自解釈に固執し、逮捕を強行した。

 政府が経済安全保障の強化を目指す中、13年に新たに規制対象となった噴霧乾燥装置の立件は警察内部の評価につながる。控訴審で証言した現職警察官は「立件する理由はなかった。幹部の欲」と批判した。捜査側が供述調書を筋書きに沿うよう誘導した実態も改めて認定された。

 国家的なスパイ事件などを手がける公安警察は、見込み捜査に陥るリスクが高いとされる。内向きの体質を払拭するには、根本的な意識改革が不可欠だ。検察にも起訴の可否を客観的に判断する力量が求められる。検証結果を基に、実効性の高い対策を打ち出す必要がある。

 控訴審判決が踏み込まなかった課題もある。罪を認めなければ簡単に保釈されない「人質司法」と呼ばれる長期勾留だ。

 逮捕された元顧問は勾留中に胃がんが判明し、翌年に死亡した。8回にわたって保釈請求したにもかかわらず、裁判所は「口裏合わせの恐れがある」との検察の主張を追認した。無実の人が被告の立場のまま死亡した事実は見過ごせない。

 保釈請求を審査する裁判所の判断に問題はなかったのか。捜査側の「追認機関」になっているのではないか。「裁判官の独立」を盾に個別の訴訟の検証を避ける姿勢を捨て、自ら問題点をあぶり出し必要な対策を講じなければならない。