年金制度改革法案の修正協議で与党の自民、公明両党と野党第1党の立憲民主党が合意した。制度改革の目玉とされながら与党が除外した基礎年金(国民年金)の底上げについて、2029年の財政検証で給付水準低下が見込まれる場合に実施すると、付則に盛り込むことで折り合った。修正案は賛成多数で衆院を通過し、参院で審議される。

 経済の低成長が続くと、基礎年金の給付水準は30年後に3割下がる恐れがある。低収入の人が多い「就職氷河期世代」の老後に備え、低年金対策は喫緊の課題だ。4年後に判断するのでは実質的に「先送り」に近く、合意内容は不十分と言わざるを得ない。

 年金は2階建てになっている。基礎年金は全ての人が受け取り、会社員などはさらに厚生年金を受給する。修正案は基礎年金底上げの主な財源に厚生年金の積立金を充てる。

 基礎年金の底上げは厚生年金受給者にも恩恵があるが、給付抑制策が長引いた影響で一定の年齢以上の人は一時的に受給額が減る。政府は影響緩和の措置を取る方針だが、その具体策も見えない。

 年金制度改革を巡っては、12年にも与党と野党第1党が合意した。この時は消費税引き上げによる財源確保を決めている。今回の底上げでは厚生年金からの充当に加え、国費の支出も40年度に5千億円、60年度には2兆円増える見込みだが、裏付けとなる財源は示されていない。財源の伴わない合意は空手形に終わる可能性が否めない。

 積立金からの充当には厚生年金加入者に「流用」との批判が根強く、与党の当初案は底上げ方針をいったん撤回した。修正協議で、立民の要求に応じる形で底上げを復活させたのは、野党を巻き込むことで夏の参院選の争点化を避ける狙いがある。

 一方、立民も参院選前に実績を残したい思惑があった。少数与党下で双方が今国会での成立を急いだ結果、改革が生煮えに終わってしまえば国民不在もはなはだしい。

 衆院では十分な審議日数が確保されなかった。参院では改革の中身や課題について議論を尽くすべきだ。

 制度改正では、厚生年金加入の「106万円以上」の年収要件を法公布から3年以内に撤廃し、企業規模の要件も35年までに段階的に撤廃する。スムーズに移行できるようきめ細かい目配りが欠かせない。

 野党は国会会期にかかわらず、年金改革を与野党で協議する場を求めている。少子高齢化の加速を踏まえ給付減や負担増も見据えた国民的な議論が必要だ。29年の財政検証を待たず、国民が安心して老後を過ごせる制度を追求してもらいたい。