企業や役所の不正を内部告発した人の保護を強化する改正公益通報者保護法が成立した。通報を理由に社員や職員を解雇や懲戒処分にした場合、関与した関係者は6カ月以下の拘禁刑か30万円以下の罰金、法人も3千万円以下の罰金が科される。2027年までに施行される。

 従来の法も通報を理由とした報復を禁じていたが、罰則がないために実効性が疑問視されていた。法改正を公益通報制度への幅広い理解につなげ、手厚い告発者保護を実現することが求められる。

 改正法には立証責任の転換も盛り込んだ。解雇や懲戒処分の取り消しを求め訴訟になる場合、これまでは「通報が理由」と告発者側が立証する必要があったが、今後は処分した側が「通報が理由ではない」と主張する際はその立証責任を負う。告発者にとっては負担軽減になる。

 ただ懸念材料は残る。不当な配置転換(配転)や嫌がらせが刑事罰や立証責任転換の対象にならなかった点だ。有識者検討会で「企業の人事権を過度に制約する」との慎重意見があり見送られた。立憲民主党は配転も罰則対象に含める修正案を提出したが、他党と折り合わなかった。

 消費者庁が23年、就労者1万人に実施したアンケートでは、通報後に報復を受けたとする人のうち37・7%が「不利益な配転」を経験したと回答した。見過ごせない数字だ。政府や国会は3年後の制度見直しを待たず、不当な処分が行われていないかを精査し、罰則の対象を広げるかどうか検討する必要がある。

 今回の法改正を巡る議論は、兵庫県の告発文書問題などと時期が重なり、大きな注目を集めた。

 県の第三者調査委員会は、斎藤元彦知事のパワハラなどを告発した元県民局長を探索、懲戒処分にした県の対応を保護法違反と断じた。しかし、知事は「対応は適切だった」としていまだに非を認めていない。

 別の第三者委は、告発者探しの過程で見つけた元局長の私的文書を前総務部長が漏えいしたのは「知事らの指示だった可能性が高い」と指摘した。懲戒処分を受けた元局長がその後自死する重大な結果を招いた。

 現行法では、自治体は消費者庁による行政指導や勧告などの対象から除外され、改正後も変わらない。それを盾に、知事が第三者委の認定や国の助言を受け入れようとしない事態は異様と言わざるを得ない。

 自治体は法令を順守する姿勢を住民に示す立場にある。知事は非を認め、対応を根本的に改めるべきだ。その上で、組織を健全に保つための公益通報制度が社会にとって利点があることを周知し、告発への報復的行為を根絶しなければならない。