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 兵庫県の斎藤元彦知事らを文書で告発した元西播磨県民局長(故人)の私的情報が漏えいした問題で、知事は自身の給与を減額する条例改正案を提出した。県議会は採決をせず、継続審議とした。

 県の第三者調査委員会は5月、井ノ本知明(ちあき)前総務部長が県議3人に漏えいしたと認定し「知事や片山安孝元副知事が指示した可能性が高い」と結論づけた。一方、知事は指示を認めておらず、「管理責任」を理由に自らの減給処分を表明したが、事実が解明されないままの幕引きは容認できない。

 文書問題を巡り、県議会の調査特別委員会(百条委員会)や県が設置した第三者委員会の調査結果は出そろった。しかし知事は意に沿わない結論は受け入れず、説得力を欠く弁明に終始している。行政トップとしての資質に欠けるのは明らかだ。人ごとのような振る舞いが混乱を助長し、県民の分断と対立を深めている。その責任を直視し、知事は自ら進退を決断するべきだ。

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 報告書によると、井ノ本氏は当初漏えいを否認していたが、後に認める弁明書を提出し、知事から「議員に情報共有しといたら」との指示を受けたと主張した。元副知事ら複数の幹部も井ノ本氏の主張に沿った証言をした。だが知事は第三者委の聴取に対しても、報告書の公表後も一貫して指示を否定している。

 首をかしげるのは井ノ本氏の懲戒処分だ。当初は停職6カ月とする案もあったが、第三者委の報告書で知事の指示に従った可能性が指摘されたのを踏まえ、停職3カ月に軽減されたとされる。「指示はしていない」とする知事の発言とは矛盾する。

 漏えいは地方公務員法の守秘義務違反の疑いが強い。知事が漏えいを指示したとすれば、共犯や教唆に当たる可能性もある。井ノ本氏らと知事の証言が食い違う以上、事実関係の徹底解明が不可欠だ。県議会主要会派が井ノ本氏の刑事告発を県に求めたが、県は「懲戒処分で社会的制裁を受けている」として拒否した。知事は追加調査も否定している。

 対照的なのが、元県民局長の私的情報が交流サイト(SNS)などで拡散された問題だ。県は容疑者不詳のまま同法違反容疑で県警に告発した。同じ漏えいでも、知事の最側近だった前総務部長の告発を県が拒むのには強い違和感を抱く。

 「組織的な犯罪だ」として、大学教授が同法違反容疑で知事ら3人への告発状を神戸地検に提出した。捜査機関による真相究明が待たれる。

■第三者委の結論軽視

 3月には別の第三者委が、告発した元県民局長を特定した行為は公益通報者保護法違反と認定し、告発文書の作成・配布を理由に懲戒処分としたのは同法違反で無効と断じた。文書にあった知事のパワハラ行為の多くを事実と認定した。

 知事はパワハラを認めたものの、自身の処分には触れず、県の対応は「適切だった」との主張を続けている。文書についても「誹謗(ひぼう)中傷性が高い」との見解を変えず、いまだに違法性を認めていない。

 公益通報者保護法の解釈を巡っても、法による保護の対象は内部通報に限定されるとの発言が、所管する消費者庁から「公式見解とは異なる」と指摘を受けた。これに対しても「一般的な法解釈のアドバイス」と正面から向き合おうとしない。

 今国会では内部告発者の保護強化を図る改正法が成立した。政府の念頭には、法の趣旨を踏みにじるような文書問題を巡る県の対応への危機感があったとみられる。罰則規定が遡及(そきゅう)適用されることはないが、知事の政治的、道義的責任は免れない。

■県議会も職責果たせ

 知事のかたくなな姿勢を支えるのは、不信任決議を受けた昨秋の出直し選挙で再選したことへの強烈な自負だろう。同じく県民の負託を受けた県議会も事態収拾に重い責任を負っていることを忘れてはならない。

 百条委の結論を待たずに不信任決議を急いだ県議会への不信感はいまも根強い。選挙後は第三者委などの結論を受け入れない知事に反発を強めつつも、不信任や辞職勧告など新たな決議には及び腰だ。

 しかし選挙結果は疑惑を帳消しにする免罪符ではない。選挙後に判明した新たな事実もあるが、知事は説明を尽くしているとは言い難い。この状況を黙認し続ければ、県民の失望は議会にも向けられる。百条委を再度設置して全容解明に努める道も探ってはどうか。二元代表制を担う職責を自覚し、議会は県政の正常化へ動き出す必要がある。