石破茂首相が初めて臨んだ通常国会が、きのう事実上閉幕した。与野党は「7月3日公示、20日投開票」の日程が確実となった参院選に向けて走り出した。

 昨秋の衆院選で少数与党に転落した石破政権は、野党の賛成を取り付けないと法案を可決できない。終盤国会の論点として浮上したコメ不足や物価高騰への対応、対米関税交渉など課題は国内外に山積する。

 与野党の立場を超えて議論が深まることが期待されたが、熟議には程遠く、懸案の解決は先送りされた。その場しのぎの政権運営を続けていては国民の政治不信は募るばかりだ。参院選での投票に資する判断材料が十分に示されたとは言い難い。

 国会は有権者の負託に応えているのか。全ての議員は自らを省み、職責と向き合わねばならない。

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 今国会では、物価高対策などの陰に隠れ、「30年来の宿題」である政治資金の抜本改革や選択的夫婦別姓の導入など焦点となった法案の審議が中途半端なまま終わった。

 選択的夫婦別姓の法制化を巡っては、野党の多くが賛同し、与党の公明党も衆院選の公約に導入を明記していた。立憲民主党と国民民主党が導入に向けた法案をそれぞれ提出し、日本維新の会は旧姓の通称使用を法制化する法案を出した。

 選択的夫婦別姓が衆院で審議されたのは28年ぶりだが、党内の賛否が割れる自民党は意見集約を見送り、野党の法案の採決も拒否した。いずれの法案も過半数を得る見通しが立たず、継続審議となった。

■目に余る懸案先送り

 自民の対応は不誠実と言うほかない。保守層への配慮などから結論の先送りを続けている。就任前は選択的夫婦別姓に前向きだった首相も指導力を発揮しようとしない。一方で主導権争いなどから一本化できず、実現の好機を生かしきれなかった野党にも責任の一端はある。結婚後の改姓による不利益の解消を訴える多くの国民の声にどう向き合うのか、次期国会での実現に向け参院選で各党の主張を見極めたい。

 自民の派閥裏金事件を契機とした企業・団体献金の扱いも同様だ。

 後を絶たない「政治とカネ」問題の温床との批判が根強いが、30年前の「平成の政治改革」以来の懸案はまたも積み残された。そもそも与野党は「3月末までに結論を得る」と合意していたはずだ。有権者に対する裏切り行為ではないか。

 立民や維新など野党5党派は政治団体を除いて献金を禁止する法案を共同提出したが、議論は棚上げされた。自民は献金存続を前提に透明性を高める法案を出し、その後、公明、国民民主と規制を強化する修正案で合意したものの、それを反映した法案は提出していない。現行制度を温存したい狙いが透けてみえる。

 会期中には首相側が自民の衆院当選1回議員15人に商品券を10万円分ずつ配った事実も判明した。裏金問題の究明も尽くされていない。このまま幕引きにすることは国民の理解を得られまい。一貫して後ろ向きな与党だけでなく、企業献金の廃止を唱えながらまとまりを欠いた野党も本気度が疑われる。

■参院選で政策を競え

 5年に1度の年金制度改革関連法は成立にこぎ着けたが、参院選で争点となるのを避けたい自民の方針がぶれて法案提出が遅れ、審議時間は1カ月足らずだった。基礎年金の将来的な底上げは付則に盛り込まれたが、実施の判断は5年後に先延ばしした。財源もあいまいだ。各党は給付と負担の将来像を明示し、不断の見直しに努めねばならない。

 少数与党下の国会で、野党が果たすべき役割も問われた。

 維新や国民民主が与党との個別の政策協議を優先するなど足並みの乱れが目についた。共闘できたのはガソリン税の暫定税率廃止法案など数える程度だ。同法案の審議に応じないとして、財務金融委員長の解任決議を現憲法下で初めて可決した。

 審議入りしても成立の見通しは立たないが、ガソリン減税を参院選の争点にしたいとの思惑がのぞく。物価高対策として家計や企業への支援は必要だ。しかし、減税に見合う代替財源を明確にしなければ無責任のそしりを免れない。

 国が巨額の借金を抱える中、与野党を問わず有権者への「ばらまき」をアピールする姿は真の責任政党とは言えない。首相は直面する課題への展望を示し、国民の判断を仰ぐべきだ。物価高対策や政治改革、社会保障などの政策を与野党が競い、先送りではない真摯(しんし)な論戦を求める。