イランとイスラエルの戦闘を巡り、トランプ米大統領は両国が停戦合意したと発表した。正式発効した25日午後1時(日本時間)以降は目立った攻撃の応酬はなく、合意が履行されている状況だ。

 両国の戦闘がこれ以上激化すれば、米軍を巻き込んだ全面戦争に発展する恐れがあった。双方が自制し、曲がりなりにも停戦が実現したことは評価できる。合意を順守し、沈静化を図らなければならない。

 攻撃は「核兵器開発の差し迫った脅威がある」としてイスラエルが仕掛けた。米国も加勢して地下核施設を空爆し、緊張が高まっていた。

 一方、イランはイスラエルの攻撃で防空機能が破壊され、戦況は極めて不利だった。カタールの米軍施設を事前通告の上で報復攻撃して体面を保ち、イランの体制維持を容認する柔軟姿勢を示した米国側の提案に応じた形だ。

 トランプ氏は「米国の攻撃が平和を実現させた」と成果を誇示する。しかし、衝突を再燃させる火種は尽きていない。

 トランプ氏は「核施設を完全に破壊した」と主張するが、米メディアによると、中核施設は破壊されず、開発を数カ月遅らせたに過ぎないとの見方を米情報機関などが示す。

 イランは「平和利用」の核開発を続ける意向を示しており、今後の核協議は難航が予想される。

 そもそもイランの核兵器開発疑惑を巡り、米情報機関は否定的な見解を示し、国際原子力機関(IAEA)も「証拠はない」としていた。今回の攻撃に際し、イスラエルも米国も明確な根拠を示していない。

 将来の危険を除去する「予防攻撃」は国際法で禁じられ、両国の攻撃は違法の可能性が高い。北大西洋条約機構(NATO)加盟国などが「合法」と支持したことも含め、禍根を残す過ちと言わざるを得ない。

 トランプ流の「力による平和」は、多国間の協調や法の支配を軽視する風潮を助長している。ロシアのウクライナ侵攻を非難する一方で、イスラエルの暴走を擁護する姿勢は「二重基準」との批判を招きかねない。米国は法に基づいた国際協調に立ち戻る必要がある。

 中東の真の安定化には、パレスチナ自治区ガザでの戦闘やヨルダン川西岸などでのイスラエルの違法な占領政策の解決が欠かせない。イランとの対立激化もこの問題が要因だ。

 ガサでの停戦や人道危機の解消を一日も早く実現させた上で、日本など各国はパレスチナとイスラエルの2国共存に向け圧力を強めるべきである。中東地域の緊張緩和に向け、国際社会は粘り強く外交努力を続けることが求められる。