フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングス(HD)の定時株主総会で、会社側が提出した11人の取締役選任議案が承認され、新たな経営体制が発足した。

 昨年末に発覚した元タレント中居正広氏と女性社員とのトラブルを、第三者委員会は「性暴力」と認定した。深刻な人権侵害との認識が上層部に乏しく、幹部社員も中居氏におもねる行動を取っていた点などを問題視し体制刷新を求めていた。番組のスポンサーが一斉に手を引き、経営は大打撃を被っていた。

 総会では、フジ側と大株主の米投資ファンドがそれぞれ役員案を諮る異例の展開となった。ファンド側は不動産事業の分離などの事業改革も掲げたが、一連の事態に関わった元社長らを提訴するなど自浄作用で再生を図ろうとするフジ側の姿勢が一定の支持を集めたと言える。

 新体制発足を受け、CM再開を表明するスポンサーが出始めた。しかし表紙が変われば中身も刷新されるとの判断は早計だろう。再出発の第一歩へ、フジは報道機関の責務として自らを厳しく検証し、視聴者の信頼を取り戻さねばならない。

 新体制は清水賢治専務が社長に昇格するが、他の10人は新任で、社外取締役が6人と過半数を占める。

 40年近く経営の中枢にいた日枝久取締役相談役は退任した。編成局長として1980年代のフジ黄金期を築いたが、社長や会長を退いた後も人事に介入、第三者委は「組織風土の醸成に与えた影響」の大きさを指摘しており、妥当な判断である。

 清水社長が被害女性に謝罪し、補償などでも合意した点は評価できるが、法令順守を軽視する体質を改めるのは容易ではない。最近も管理職やアナウンサーがオンラインカジノで賭けていた容疑で書類送検された。管理職は「職場の先輩に誘われて始めた」と供述している。

 見逃せないのは、一連の問題を契機に総務省が民間放送事業者の企業統治強化を唱え始めた点だ。有識者による検討会を設け、年内に結論をまとめるという。4月にフジに対して再発防止を求める行政指導をしたが、法的拘束力はないため、自民党内に「外部からの監視が届きにくい」との意見が出ていた。

 所得隠しや募金の着服など民放の不祥事は後を絶たない。公共の電波を使う以上、法令順守や企業統治には高い水準が求められるのは言うまでもない。

 だが、政府主導の民放統治が行き過ぎるようであれば、放送の独立性が揺らぎかねない。日本民間放送連盟や各局は結束し、自らを厳しく律する方向で業界改革に取り組む必要がある。