昨年から続くコメ不足と米価高騰は、長年にわたる生産調整など農政のひずみが招いたと指摘される。今回の参院選では各党が農業支援の強化やコメ増産の訴えでおおむね一致する。

 人口減と高齢化で農業の担い手は減り続ける。食料供給だけでなく、環境保全や集落維持など、農業にはさまざまな機能があることを踏まえ、目指す農政の姿を競い合ってもらいたい。

 公約で違いが目立つのは、農家への直接給付だ。

 自民党は水田政策見直しや農業予算の別枠確保、公明党はコメ流通の実態調査や農地の集約による収益力強化などを掲げるが、給付には言及していない。

 一方、立憲民主党は「食農支払」と銘打つ直接支払制度の創設を、共産党と国民民主党は収穫量や農地の面積に応じた給付を、社民党は戸別所得補償の復活を掲げる。また日本維新の会はコメ輸入制度の見直しや「稼げる農業」を唱える。

 旧民主党政権が2009年に掲げた戸別所得補償制度は、農産物の生産コストが販売価格を下回れば差額を補塡(ほてん)する内容だった。農家の規模を問わず補償の対象としたため、ばらまきの批判を浴びた。

 しかし今後コメ増産に転じるには、価格が下落しても農家の経営が成り立つような施策を練り上げる必要がある。

 直接支払いを実施する場合、限られた財源の中で最大限の効果を上げるには生産コストが低い大規模農家に対象を集中させるのが理にかなう。

 しかし兵庫県を例に取れば、5ヘクタール未満の小規模農家の農地が全体の7割を占める。その担い手がいなくなれば農産物の生産量が減るだけでなく、農地の荒廃や乱開発で環境破壊を加速しかねない。農家が安心して生産し、消費者も納得できる支援策を構築しなければならない。

 重要なのは、多様な担い手に適切な支援を行い農業の魅力を高め、次代の人材を育てることだ。過疎にあえぐ集落などに人を呼び込み、地域の活力を高める効果も期待できる。

 農業の何を守り、どこを改革していくか、良識の府・参議院らしい長期的な視点の議論を期待したい。