不利益を被っている人が大勢いるにもかかわらず、政治が問題解決を棚上げしたまま約30年が経過した。
夫婦が同姓となるか、結婚前の姓を名乗り続けるかを選べる選択的夫婦別姓を巡る国会の動きは、怠慢と言うほかない。議論は出尽くしており、制度導入を求める切実な声に応えるべきだ。
先の通常国会で、立憲民主党、国民民主党、日本維新の会の野党3党はそれぞれ別姓関連法案を提出した。28年ぶりの審議入りだったが、強硬な反対派がいる自民党は意見がまとまらず、採決に至らなかった。秋の臨時国会で継続審議する。
参院選の結果によっては、審議に大きな影響を及ぼす可能性がある。
法相の諮問機関、法制審議会が選択的夫婦別姓の導入を答申したのは1996年だ。背景には、国際社会でジェンダー平等を目指す動きが広がっていた状況がある。日本では夫婦の9割超が夫の姓を選び、改姓による負担は女性に偏ってきた。
夫婦同姓しか認めない現行制度は女性のみならず別姓を望むカップルへの差別とも言える。国連女性差別撤廃委員会は過去4度、日本政府に改善を勧告した。人権問題としてとらえる必要がある。
一方、自民党の別姓反対派の主張は、同姓でないと家族の絆が弱まるといった「あるべき家族観」が目立つ。別姓が認められている諸外国と比べて日本の家族は強い絆で結ばれていると言いたいのだろうか。個人的な感情の域を出ず、説得力に欠けると言わざるを得ない。
参院選の公約に自民は「すべての女性が自分らしく生きられる社会をつくる」と記すが、選択的夫婦別姓には触れていない。有権者が判断できるよう態度を示すべきである。公明は導入を目指すとしつつも、さらなる議論が必要との立場だ。
野党は多くが制度実現を主張する。立憲民主をはじめ、国民民主、共産党、れいわ新選組、社民党が公約に掲げた。ただ、国民民主の玉木雄一郎代表は4月の会見で「家族は同じ姓を名乗るのが原則」と発言を後退させたことがある。
維新は同姓を原則としながら旧姓の通称使用に法的効力を与える制度の創設を訴える。通常国会に提出した法案と同様の内容である。参政党は明確に別姓に反対する。
経団連や労働組合の連合は、通称使用の拡大では根本解決にならないとして別姓の実現を求めている。
政府や共同通信などの世論調査では幅広い世代で導入賛成が多数を占める。各党がジェンダー平等の実現にどのように取り組もうとしているのか、選択的夫婦別姓はそれを測る一つの指標でもある。