1986年に福井市で中学3年の女子生徒が殺害された事件の裁判をやり直す再審公判で、名古屋高裁金沢支部は18日、殺人罪に問われ懲役7年が確定、服役した前川彰司さん(60)に無罪判決を言い渡した。
前川さんは逮捕時から無実を訴え続け、90年の一審判決は無罪だったが二審で逆転有罪となり、再審無罪まで30年以上かかった。検察は上告を断念して謝罪し、冤罪(えんざい)の原因について第三者の検証に委ねるべきだ。
事件では犯人の指紋など直接的な証拠はなかったが、「事件後、服に血が付いているのを見た」などとする知人らの証言の信用性が争点となった。
増田啓祐裁判長は判決理由で「捜査に行き詰まっていた警察が知人らに誘導などの不当な働きかけをし、証言を形成した合理的疑いが払拭できない」と指摘した。検察の対応も「証言の矛盾を把握しながら明らかにせず、不誠実で罪深い不正」と断じた。刑事訴訟法が求める「真相の解明」を警察、検察の双方が著しく軽視した実態に怒りを禁じ得ない。
近年は再審無罪が相次ぎ、昨年には静岡県一家4人殺害事件で死刑が確定した袴田巌さん(89)が逮捕から58年を経て無罪となった。前川さんを含め、罪に問われるべきでない人の名誉回復に時間がかかりすぎている。再審制度を早急に見直さなければならない。
前川さんの再審に時間がかかった要因は、検察側が第2次再審請求審まで重要な証拠を開示しなかったためだ。ようやく示された計287点を弁護団が精査し、ずさんな捜査の実態をあぶりだした。現行の再審制度では証拠開示のルールは定められていない。再審請求は全ての証拠を踏まえ審理されるべきだ。
証拠隠しの実態は、滋賀県の患者死亡事件で再審無罪となった元看護助手への損害賠償を命じた17日の判決でも認定された。県警は「自然死の可能性」を示唆する報告書など不利な証拠を検察に送付しなかった。
滋賀の判決は検察の対応には違法性がないとしたが、起訴の権限を全面的に持つ責任は極めて重い。誤った訴追を防ぐ対策も急がれる。
再審開始の決定に対し検察の異議申し立てを認める点も時間がかかる要因だ。前川さんの第1次再審請求の開始決定にも検察が抗告した。決定後は速やかに再審へ移行し審理を尽くす仕組みに改める必要がある。
野党6党は6月、再審手続きを改正する法案を議員提出したが、自民党などが「専門家の議論を待つべきだ」として加わらず継続審議となった。対応が遅すぎると言わざるを得ない。政治が主導してあるべき再審制度を実現してもらいたい。