学校での学びに新聞を活用するNIE(Newspaper in Education=教育に新聞を)の実践を共有し、知見を深める「NIE全国大会」がきのう、神戸市で始まった。

 交流サイト(SNS)で誰もが発信できる時代となり、デマや真偽不明の情報が瞬時に拡散されるようになった。災害時の救助に支障を来したり、選挙結果に大きな影響を及ぼしたりする事例は、日本でも珍しくない。社会の分断や命の危険すら招きかねない状況だ。

 正確な情報を選び取り、読み解く力を育むことが一層求められる。それは健全な民主主義の基盤づくりであり、同時にマスメディアの果たすべき役割も問われている。

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 兵庫県立洲本高校で地理歴史・公民を担当する大石昇平教諭が、どきっとする場面があった。

 6月、NIEの一環で新聞部や図書委員の1~3年生20人と、地元の高齢者グループのメンバー11人が班に分かれて新聞記事を題材に意見交換した。「出生数初の70万人割れ」の記事に、高齢女性が「子どもは多い方が楽しい。たくさん産んでほしい」と発言すると、女子生徒がきっぱりと言った。「私は子どもをほしいとは思いません」

■多様な価値観を実感

 高齢者たちは一瞬戸惑ったようだが、別の女性が「今の時代、高校生の言うことも分かる気がする」と返した。大石教諭は「少しハラハラしたが、世代が異なれば考え方も違うと生徒たちは実感したと思う。社会にはさまざまな意見があることを知り、多角的に議論するのに、新聞は役立つ」と語る。

 参加した男子生徒の感想が印象的だ。「価値観が違っても、直接話してみると分かり合える部分があるんだなと感じた」。新鮮な驚きだったという。敵と味方に分かれて対立しがちなSNSの怖さを改めて認識したと話す生徒もいた。

 NIEは米国で1930年代に始まった。日本では新聞社や通信社などが加盟する日本新聞協会が85年に提唱した。教育行政と連携して全都道府県に「NIE推進協議会」を設け、記者の出前授業や教員向けセミナーなどを行う。2025年度は兵庫県の小中高校25校を含む全国514校が実践校に指定された。

 興味を持った記事を選んで要旨をまとめ、調べたことや感想、意見を発表し合う。さまざまな教科で、そうした実践が広がっている。政治、経済、事件・事故、文化、スポーツと幅広い情報を網羅する新聞の特色を、子どもたちの深い学びに活用してもらいたい。

■信頼性高める努力を

 ネットのフェイクニュースや極端な意見をうのみにしないように、記事の読み比べや、データの出典チェックを子どもたちに促している教員は多い。7月の参院選では、神戸新聞をはじめ各社が候補者の発言などの真偽を検証するファクトチェックを行った。情報リテラシーの向上に資する取り組みをメディアは今後も続ける必要がある。

 尼崎市立南武庫之荘中学で国語を教える中嶋勝教諭は、生徒の「新聞ノート」作成に手応えを感じている。記事の要旨や感想を短時間で記すことを繰り返すうちに語彙(ごい)や知識が増え、表現力が身につくという。

 一方で「新聞離れ」を痛感している。「授業で初めて紙やデジタルの新聞に触れる生徒は多い。最初は読むのに苦労するが、慣れるにつれて社会への関心は確実に広がる。教育現場で日常的に記事が読める環境を整えてほしい」と話す。

 取材で複数の教員から「新聞はもっと自分を語った方がいい」との言葉をもらった。どのような判断で「書く」「書かない」を決めているのか、正確を期すためのチェック態勢は-。信頼性を高めるための努力がメディアに求められている。肝に銘じねばならない。

 NIE大会ではきょう、公開授業などが行われる。交流を深め、実践の輪をさらに広げたい。