海上自衛隊の潜水艦修理で、川崎重工業が架空取引で裏金を捻出し、乗員らの要望に応じて物品を提供していた問題で、防衛省は特別防衛監察の最終報告を公表した。
川重と取引先企業との架空取引は2018~23年度だけで計約17億円に上る。一部は裏金としてプールされ、乗員が作った要望リストに基づき、ゲーム機やゴルフバッグなどが提供された。13人が計約140万円相当分の受領を認めた。飲食接待の事実などは特定できなかった。同社が捻出した裏金の大半は使途不明のままだ。
海自は川重以外にも三菱重工業、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)、佐世保重工業から不正に備品などを調達していた。一連の行為は遅くとも約40年前から始まり、潜水艦だけでなく水上艦艇の修理でも行われていた。海自と防衛産業大手の癒着の根深さに、がくぜんとする。
疑惑の全容解明には程遠い。防衛省は不正の全貌を明らかにし、癒着の根絶に取り組まねばならない。
最終報告では海自側の不正調達の仕組みが明らかになった。修理を監視する立場にあるはずの監督官が長年、主導的な役割を果たしてきた。中には腕時計などの私物を要求していた監督官もいたというから、あきれる。
歴代の監督官は、乗員から工具や備品などの要望を受けた際、正規の手続きをせず造船各社に調達を要求し、発注工事の作業箇所や面積を水増しした指示書を作るなどして費用を補塡(ほてん)していた。正規ルートで契約すると時間がかかるからだという。
この方法で調達した物品は業務用だったとされるが、実際に業務に使われたかは確認できなかった。三菱重工業やJMUは契約外の調達をやめたいと申し入れたこともあったが海自側に押し戻された。
慢性的な在庫不足の問題があるなら、調達や補給の仕組みを改善するのが筋である。その努力をせず、安易に不正に走った行為の正当化は許されない。不正の温床を放置してきた海自幹部の責任は重い。
防衛省は指揮監督義務違反で海自トップの斎藤聡海上幕僚長を減給処分としたほか、隊員92人を内部規定による訓戒や注意とした。私物の受領を認めた13人については、自衛隊倫理法違反の疑いもあるとみて今後処分を検討する。不十分な調査に基づく処分で、身内に甘い印象は否めない。悪質なケースは刑事責任も問うべきだ。
海自で続く不祥事は、自衛隊全体への国民の信頼を損ねている。防衛省は組織の構造的な問題と認識し、その背景と要因を明らかにする必要がある。