自民党が両院議員懇談会に続いて開いた両院議員総会で、党総裁選の前倒し要求が相次いだ。参院選大敗の責任を理由に、党総裁である石破茂首相の退陣を迫るものだ。
首相は冒頭、参院選敗北をわび、米国との関税交渉合意の実行やコメ政策など国内外の課題を挙げて「引き続き日本国に責任を持つ」と続投の意思を改めて表明した。議論は総裁選前倒しの是非に絞られ、続投を支持する声も一部あったが、早期退陣を迫る意見が続出したという。
党則上、任期途中の総裁選実施には党所属国会議員と都道府県連代表者の総数の過半数の賛同が必要になる。判断を一任された総裁選挙管理委員会が議員や県連の意思確認に入る。実現すれば石破政権の維持は難しい状況に追い込まれる。ただ、こうした手続き自体に前例がなく、結論の出し方や委員の人選を決めるのに一定の時間がかかる見通しだ。
参院選の敗北から20日たっても党の内紛に明け暮れ、今後の政権運営の枠組みさえ見えてこない。国民の不信は高まるばかりである。
衆院選に続き参院選でも与党の過半数割れを招いた首相の責任は免れようもない。たとえ総裁選の前倒しが実現しなくても、参院選の総括を踏まえ、適切な時期に自ら進退を判断し、けじめをつける必要がある。
だが、政権が信任を失った要因は首相の指導力不足だけではない。「政治とカネ」を巡る問題や国会議員の暴言・失言などの不祥事が繰り返されるたびに露呈する自浄能力の欠如など、内向きな党の体質そのものにある。一連の「石破降ろし」からはその危機感が感じられない。
トップのすげ替えで解決する問題ではないと党全体で認識し、抜本的な再生策を示さなければ、国民の信頼は取り戻せない。参院選の総括に厳しい姿勢で臨まねばならない。
退陣論の中心となっている議員たちにも自省を求めたい。多くは派閥裏金事件の震源となった旧安倍派をはじめ、旧茂木派、麻生派など石破政権では非主流派に身を置く。石破降ろしを主導し、次期総裁選での復権を狙っているのだろう。その光景は、裏金問題を機に解消したはずの派閥政治そのものではないか。
首相への非難は、企業・団体献金の規制強化に向けて立憲民主党と協議する方針や、コメ増産への転換を党との事前調整なしに言及した点にも向けられた。いずれも自民政治が長年抱える懸案であり、党改革にもつながる政策転換になり得る。
少数与党の政権運営は党内調整だけでなく、野党の協力なしには進まない。国民のために何を成し遂げるか。首相は自らの進退をかけて取り組む政権の使命を見定めるべきだ。