ロシアによるウクライナ侵攻は、両国首脳による直接会談と、米国も交えた3者会談で決着を目指す見通しとなった。3年半にわたる戦闘で市民は多大な犠牲を強いられ、これ以上の流血は許されない。国際社会はロシアに対し、停戦実現を強く促さなければならない。
直接会談は米国の仲介で浮上した。トランプ米大統領はプーチン・ロシア大統領、ゼレンスキー・ウクライナ大統領と相次いで会談した後、電話会議で実現に向け調整を始めた。北大西洋条約機構(NATO)の加盟国などを含めた拡大会合も開き、首脳会談への支持を得た。
首脳同士の直接交渉は停戦への大きな突破口となる可能性がある。まずは実現を目指してもらいたい。
焦点の一つは、ウクライナへの「安全の保証」の在り方だ。トランプ氏はゼレンスキー氏との会談で、米国による「強力な保護と安全を提供する」と表明した。
極端な自国第一主義を掲げるトランプ氏はこれまで、ウクライナの安全に対する米国の関与に否定的だった。一方、プーチン氏はNATOの関与に強い抵抗を示していた。
和平合意後の安全保証には、日本を含む30カ国が関与するとの見方もある。米国も責任を担い、実効性を担保する必要がある。ウクライナが再びロシアの侵攻を受ける事態は断じてあってはならない。
もう一つの焦点は領土問題だ。ロシアはウクライナ東部ドンバス地域(ドネツク、ルハンスク両州)の割譲を求めているとされる。ウクライナ側は暫定的な実効支配は容認する方針とみられるが、ロシア領と認める割譲は国内の合意形成も容易ではなく拒否する意向だ。
不安材料はロシア寄りの姿勢を見せてきたトランプ氏の対応にある。
領土問題でウクライナに妥協を迫る事態はあってはならず、当事者の判断が尊重されるべきである。力による現状変更を容認すれば、新たな紛争の引き金にもなりかねない。
トランプ氏は停戦を経ずに和平合意を実現し、ノーベル平和賞を目指す思惑とされる。名誉欲につけこまれ、停戦引き延ばしの口実にされる事態は避ける必要がある。早期の停戦が実現しなければ、ロシアに対し強力な制裁を実施してもらいたい。
プーチン氏には占領地域からの子供の拉致に関与した疑いで国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ているにもかかわらず、トランプ氏は会談で歓待した。そもそも侵攻自体が国際法違反である。
自身が目指す和平実現のプロセスには、国際秩序の回復という大きなテーマが課せられていることをトランプ氏は肝に銘じるべきだ。