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 宮崎県沖の日向灘を震源とする地震発生を機に、政府が南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を初めて発表して1年が経過した。命を守る備えは十分か改めて確認したい。

 臨時情報は、東海から九州の太平洋沖にかけて広がる南海トラフ想定震源域でマグニチュード(M)6・8以上の地震や異常な地殻変動が観測された場合、その後の巨大地震に備えるために出される。

 昨年8月8日に日向灘で起きた地震はM7・1だったことから、有識者の評価検討会は巨大地震の可能性が平常時より高まっていると判断した。兵庫を含む29都府県707市町村を対象に、日頃の備えの再確認とすぐに避難できる準備を要請した。

 夏の行楽シーズンやお盆時期と重なり、津波が想定される地域では混乱も生じた。「注意」終了までの1週間、花火大会などを予定通り実施した自治体が多かった一方、和歌山県白浜町などは海水浴場を閉鎖するなど対応は割れた。運行を取りやめた交通機関や宿泊のキャンセルなどが相次ぎ、観光に影響が出た。

 こうした点を踏まえ政府は今月、臨時情報が出た際に自治体や事業者が取るべき対応をまとめた指針を改定した。適切な防災対策を前提に、イベントや海水浴は「できる限り継続が望ましい」とし「注意」発表時は鉄道運休などは原則求めない方針とした。最も危険度の高い「警戒」発表時の事前避難は全国で少なくとも52万人に上るとも発表した。

 ただ、被災リスクや防災体制が地域ごとに異なるため、最終的な判断は各現場に委ねるとしている。安全の確保と社会経済活動のバランスを図った形だが、国は現場に「丸投げ」するのではなく、事前に対応整備に取り組む自治体や企業への支援を強化する必要がある。

 南海トラフ沿いでは過去に巨大地震がしばしば起きており、30年以内の発生確率は80%程度とされる。過度に悲観的にならず、「正しく恐れること」が大切だ。家具の転倒防止や避難経路の確認など身の回りの備えを積み重ねていきたい。

 政府は7月、最新の被害想定に基づき「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」を改定し、新たな減災目標を掲げた。最大29万8千人の死者数を今後10年間で8割減らすとした。2014年に策定した基本計画も8割減の目標を掲げたが、実際は2割減にとどまった。新計画も画餅に帰すことのないよう、国が責任を持って対策を主導すべきだ。

 被害の抑制は住民らの迅速な避難と建物の耐震化が進まないと実現しない。命を守るために、ハード、ソフトの両面から減災対策を着実に進めていかねばならない。