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 停戦協議のため仲介国へ出向いた紛争当事者の交渉団を、もう一方の当事者が狙い撃ちで殺害する。こんな暴挙が許されるはずはない。

 パレスチナ自治区ガザでの戦闘を巡り、イスラエル軍はカタールの首都ドーハを空爆し、イスラム組織ハマスの交渉団トップ・ハイヤ氏の息子ら6人を殺害した。うち1人はカタールの治安部隊要員という。ハマス側は、ハイヤ氏は生存し、「攻撃は失敗だった」と主張している。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、エルサレムで6人が死亡した銃撃テロ事件などへの報復と主張し、「戦闘終結につながる」と空爆を正当化する。だが、ハマスとカタールの態度硬化は避けられず、停戦協議がますます停滞するのは必至だ。

 ネタニヤフ氏はさらなる攻撃を示唆した上で、ハマスが政治部門の拠点を置くカタールに対し、国外追放を要求した。主権を著しく侵害し、明白な国際法違反である蛮行を到底容認できない。国際社会は結束して圧力を最大限に強め、イスラエルの暴走を抑えねばならない。

 国連安全保障理事会の全ての理事国が攻撃を非難し、カタールへの連帯を表明する声明を出したが、イスラエルへの名指しの批判は避けた。最大の支援国、米国への配慮とみられるが、仲介国への空爆を阻止できなかった米国の責任は極めて重い。

 トランプ米大統領は停戦交渉を主導し、ハマス側に「最終警告」として条件を提示していた。今回の攻撃はイスラエルが交渉自体を壊し、停戦を拒否するものだ。

 トランプ氏は「私の判断ではない」と不満を表明したが、イスラエルが強気なのは後ろ盾の米国の擁護が揺るがないと信じるからだろう。

 米国はカタールへの攻撃とガザでの戦闘の即時中止をイスラエルに強く求め、応じなければ武器供与の停止など圧力を強めるべきだ。これまで反対してきた国連の非難決議などにも賛成し、国際秩序回復への道筋を早急につけてもらいたい。

 ガザでの戦闘開始から2年近くになるが、イスラエルは強硬姿勢を強める一方だ。中心都市であるガザ市全域を制圧する方針を打ち出し、全住民に即時退避を命令し地上侵攻を始めた。住民の多くは市内にとどまっているとされ、さらにおびただしい血が流される恐れがある。

 イスラエル側はパレスチナ自治区のヨルダン川西岸の約8割を併合し、パレスチナ国家樹立を阻止する案も発表した。中東和平の実現を遠ざける暴論である。

 日本が今回の攻撃を「強く非難する」としたのは妥当だ。欧州各国などと緊密に連携し、経済制裁などの強い措置も検討する必要がある。