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 中央銀行である日銀の使命は物価の安定だ。長引く物価高で国民の負担が増す中、日銀は19日の金融政策決定会合で政策金利を現行の0・5%程度で維持することを決めた。1月に0・25%程度から引き上げて以来、5会合連続の据え置きとなる。

 物価高の一因は、円安による輸入物価の上昇にある。米連邦準備制度理事会(FRB)は17日、9カ月ぶりの利下げに踏み切った。ここで日銀が利上げすれば日米の金利差が縮小し、円の値上がりによる物価抑制も期待できた。

 しかし植田和男総裁は、利上げが景気に冷や水をかける可能性を重視した。米国の高関税政策の影響が「これから一段と出る」と慎重な姿勢を崩していない。

 金融緩和の長期化であふれた投資資金は不動産に流れ込んでいる。以前のバブルには及ばないが、消費者の手が届かなくなった物件も多い。

 植田総裁は「経済・物価の改善に応じて政策金利を引き上げる」と次回10月会合での追加利上げに含みを残した。金融政策が後手に回り、バブル膨張と崩壊を招いた歴史を踏まえ、政策変更の時機を見誤らないでもらいたい。

 会合では、大規模金融緩和のために買い入れた上場投資信託(ETF)などの売却を決めた。企業の株式を組み入れているため、保有する日銀は事実上、多くの上場企業の大株主となり、経営監視などの機能が働かないなどの批判を集めていた。

 大量の株式売却を連想し、きのうの株式市場は値を下げたが、年間売却額は時価ベースで市場全体の約0・05%に過ぎない。市場に丁寧に説明し、売却を進めてほしい。

 米国ではFRBへの政治圧力が高まっている。パウエル議長は高関税による物価上昇を危惧し、利下げに慎重だった。利下げを迫るトランプ大統領はパウエル氏に同調するFRB理事の解任を企てた上、利下げ派の理事を送り込んだ。

 パウエル氏は雇用状況の悪化を今回の利下げの理由に挙げたが、理事の構成が変わり利下げが加速するとの見方が強い。物価上昇が勢いづき、インフレに陥る懸念がある。

 政治の動向は日銀も意識せざるを得ない。少数与党下で減税などを掲げる野党の主張が通れば、財政が膨張するのは必至だ。財源を国債に頼るなら、最終的には日銀が引き受けることになる。物価を抑制するために利上げをしても、大量の国債を買い入れれば金利を押し下げ、政策効果は薄まるばかりだろう。

 物価の安定は中央銀行の使命だが、財政の方向性も物価に大きな影響を及ぼす。そのことを、政治も重く認識しなければならない。