発がん性などの問題が懸念される有機フッ素化合物(PFAS)を取り扱っていた大手メーカー・ダイキン工業(本社・大阪市)が、過去に従業員の血液検査を行い、米学術機関指針値の500倍以上となる濃度のPFASを検出していたことが明らかになった。健康への影響は確認されていないというものの、海外の事例と比べても極めて高い数値である。専門家は「労働との因果関係が疑われる」と指摘する。
PFASの血中濃度と健康に関する科学的解明が待たれる中、この検査結果は重要なデータとなり得る。環境省も「研究への活用が検討できるのではないか」と述べている。同社は被害防止に役立てるため、結果をすみやかに公開するべきだ。
ダイキン工業は2015年まで、PFASの一種であるPFOAを製造・使用していた。製造に携わる従業員の検査をしたのは2000年代初めから15年ごろで、1ミリリットル当たり1万ナノグラム(ナノは10億分の1)以上の人もいたという。健康状態の調査は15年以降も行ったとされる。
同社の工場がある大阪府摂津市では、地下水から国の暫定目標値(1リットル当たり50ナノグラム)を大幅に上回るPFASが検出された。今年6月には近隣住民ら62人の血液検査で、7割近くの人が米指針値を超えたとの結果を市民団体が公表した。
こうした経緯を踏まえ、今月ダイキン工業が住民説明会を開き、従業員検査の事実を明らかにした。だが説明会の内容は関係者以外には示せないとした。工場が面する淀川の水は兵庫県内の水道にも使われている。環境汚染が広域に影響を与える恐れがある以上、同社は地域を限定せずに説明を尽くす責任がある。
PFASの血中濃度については国の指針値がまだない。一方で自主的な検査が広がり、明石市や西脇市、尼崎市の住民などからも海外の指針を超える数値が出ている。全国で初めて公費で血液検査を実施した岡山県吉備中央町は「国が指針を打ち出してほしい」と要望する。
国民の不安に対応するためにも、政府は海外の研究も参照しながら指針値の検討を始めてもらいたい。米国では約7万人を対象にした疫学調査などが実施され、PFASと疾患の関連を巡る研究が進んだ。日本でもデータの蓄積が不可欠であり、大規模な健康調査が求められる。
日本では来年4月から、水道水に関するPFASの暫定目標値が水質基準になる。3カ月に1回を基本に定期的な水質検査などが義務化される。ただ、米国や欧州ではより厳しい規制の方向に進んでいる。日本の水質基準も妥当かどうか、科学的な検証を続けていかねばならない。