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 米国と中国が、貿易を巡る圧力のかけ合いを当面回避することで合意した。だが、持続的な緊張緩和につながるかは依然見通せない。

 第2次トランプ政権で初となる習近平国家主席との対面による首脳会談は、経済分野が主要議題となった。トランプ関税に端を発する両国間の報復の応酬が、互いの経済に打撃を与えているためである。

 最大の焦点となったのは、電気自動車(EV)のモーターやハイテク製品に使われるレアアース(希土類)の取り扱いだ。世界最大の生産シェアを持つ中国が、輸出規制の導入を1年間先延ばしする。米国は、合成麻薬フェンタニルの流入を理由に中国に課していた20%の追加関税を10%引き下げる。

 加えて中国は、大豆などの米国産作物を大量に購入する。トランプ関税への報復とみられる中国の大豆輸入の大幅減は、米国の農家に大打撃を与えている。農家に支持層の多いトランプ政権にとっては、何としても解決したい問題だった。

 「(会談は)素晴らしかった」とトランプ氏は満足そうに語った。しかし、米中の覇権争いは今後も激化が予想され、貿易摩擦が再燃する恐れは十分にある。レアアースの輸出規制は、日本にも大きな影響が及ぶ。情勢の変化に備え、新たな調達先の確保や国内生産などを検討する必要があろう。

 超大国のトップが顔を合わせながら、世界情勢の安定化にどう資するかを突っ込んで話し合った形跡が見えないのは残念だ。

 日本にとって極めて重要な台湾問題は、協議のテーブルに乗らなかった。中国はウクライナに侵攻するロシアとの関係を緊密化させている。米国はインドに対してロシア産原油の禁輸を迫っているが、同様に原油を輸入する中国には会談でこの件を持ち出さなかったようだ。

 目先の利益を優先して中国に譲歩する米国の「自国第一」が浮き彫りになったと言える。同盟国の頭越しに大国同士でディール(取引)しかねないトランプ氏の外交姿勢に、危うさを禁じ得ない。

 さらに驚いたのは、会談の直前に核兵器実験の開始を国防総省に指示したとトランプ氏が交流サイト(SNS)で明らかにしたことだ。他国が核実験を続ける中で「やむを得ない選択だ」と説明しているが、米国は世界最大の核兵器保有国である。核軍縮に背を向けるような行動は容認できない。

 来年4月にトランプ氏は訪中する意向を示した。習氏の訪米も取り沙汰されている。米中は関係改善に努め、大国として世界和平や国際秩序の維持に貢献するべきだ。