神戸新聞NEXT

 地方の人口減少と疲弊を直視し、それに備える戦略を早急に構築しなければならない。地方創生は石破前政権が最重要課題と位置付けた政策だったが、リーダーが代わろうとも対応を強化する必要がある。

 高市早苗首相は所信表明演説で「地域未来戦略」を掲げ、政府の支援で台湾の半導体メーカーが熊本県に進出した事例などから「地方に大規模な投資を呼び込み、地域ごとに産業クラスターを戦略的に形成していく」と述べた。都市と地方に生活拠点を持つ二地域居住、稼げる農林水産業の創出などを挙げ「地方に活力を取り戻す」とも訴えた。

 高市首相は自民党総裁選後に石破茂前首相肝いりの地方創生などに言及し「大きな道を開いてくれた」と評価した。だが所信表明での言及に新味は感じられず、どこまで力を入れようとしているかは不透明だ。

 地方創生は人口減少の克服と東京一極集中の是正を掲げ、安倍政権が2014年に打ち出した。国の補助金などを活用し、各地域は子育て支援策や移住促進策を競った。政府機関や企業の本社の地方移転なども促したが、顕著な効果は見られなかった。政府のかけ声とは裏腹に、地方から東京圏への人口流出に歯止めがかからず、自治体の持続性が危ぶまれる地域も出ている。

 政府は今年6月、今後10年間の新たな指針となる基本構想「地方創生2・0」を閣議決定した。地方の人口減少が進む事態を「正面から受け止める」とした上で、若者や女性に選ばれる職場環境や官民連携、デジタル技術の活用などで地域の魅力を高め、東京圏から移住する若者を倍増させる目標を掲げた。

 東京圏に転入する人は、大学や就職を契機にした10代後半や20代の若者、とりわけ女性が多い。基本構想はこの点を踏まえたと言え、具体策は地方の官民も主体的に動いて練り上げる必要がある。

 地方創生を巡る各施策が効果を発揮できない要因の一つに、地方への財源や権限の移譲が進んでいない点も挙げられよう。首相は与野党で合意したガソリン税の暫定税率廃止を巡り、軽油に関しても廃止を明言している。軽油引取税は都道府県税であり、廃止となれば年5千億円程度の減収となる。首相が所信表明でも触れた地方財政への影響を十分考慮することが欠かせない。

 新たに連立政権を組んだ日本維新の会は東京一極集中の是正を主張し、首都機能を代替する「副首都」構想を掲げるが、地方創生の視点を忘れてはならない。国の機関や税源の在り方、多極的な国家構造への転換につながる具体性や実効性を備えた議論を深めてほしい。