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 時代の要請に政治はいつまで背を向け続けるのか。改めて選択的夫婦別姓制度の導入を求める。

 政府、与党は旧姓使用を法制化する準備に入った。自民党と日本維新の会が連立政権合意書に明記した政策である。

 夫婦同姓を義務付ける「同一戸籍同一氏」の原則は変えず、旧姓に法的効力を与える関連法案を来年の通常国会に提出するという。高市早苗政権は、これにより結婚で改姓した人の不便を解消すれば事足りると考えているのだろう。

 しかし、根本的な解決にはならない。1人で二つの名字を使い分ける状況は残る。改姓でアイデンティティーの喪失を感じる人への配慮にも欠ける。旧姓使用の法制化では選択的夫婦別姓の議論を幕引きできないのは明らかだ。

 結婚で姓を変えるのに違和感を持たない人もいれば、そうでない人もいる。変えたくない人にとって、現行制度は改姓による負担や不利益をやむなく受け入れるか、婚姻を諦めるかの二者択一を迫るに等しい。人権に関わる問題である。

 夫婦どちらの姓も選べるが、夫婦の9割超は妻が改姓しているのが現状だ。男女間の不平等を反映していると言える。ジェンダー平等を目指す動きが世界に広がる中、法制審議会が1996年に選択的夫婦別姓の導入を答申し、最高裁も国会での議論を促してきた。

 ところが、高市氏ら自民党の保守派が強硬に反対し、問題解決を棚上げしたまま今に至る。自民党内には選択的夫婦別姓の導入を求める声もあり、旧姓使用の法制化には、野党に加え自民党の別姓賛成派からの反発が予想される。

 現在、運転免許証やパスポートなどには旧姓を併記できるが、金融庁の2022年調査では銀行の約3割が旧姓での口座開設を認めていない。マネーロンダリング(資金洗浄)対策の一環というが、旧姓に法的効力が与えられれば、確かに利便性は高まるだろう。

 ただ法務省によると、夫婦同姓を義務付ける国は日本だけだ。旧姓の通称使用は海外で理解されにくく、ビジネス面でのトラブルや、積み上げた研究実績が改姓で分断される可能性も否めない。国内問題ととらえず、国際社会で日本の企業人や研究者が活動する際の足かせになっているとの認識も欠かせない。

 共同通信の世論調査では選択的夫婦別姓の導入賛成が多数を占める。若い世代ほどその割合が高い。経団連や労働組合の連合も実現を求めている。結婚の障壁にもなり得る現行制度は時代にそぐわない。是正は政治の責務である。