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 「物価の番人」として当然の判断だが、効果のほどは見通せない。

 日銀は19日の金融政策決定会合で、政策金利を現在の0・5%程度から0・75%程度に引き上げることを決めた。バブル経済が崩壊し、景気対策の一環として金融引き締めから緩和に転換した1995年9月以来30年ぶりの水準で、政策委員9人がすべて賛成した。海外との金利差を縮小し、物価高の要因の一つである円安に歯止めをかける狙いだ。

 植田和男総裁は、物価や経済の状況に応じ今後も適切なタイミングで利上げする方針を示した。しかし具体的な時期に触れなかったため市場では利上げに慎重と受け取られ、円安の流れは変わっていない。

 一方、長期金利の指標となる10年物の国債の利回りは2・1%台に上昇し、およそ27年ぶりの高水準となった。物価抑制へ追加利上げのペースを速めれば、企業融資や住宅ローンの上昇など悪影響も強まる。日銀には慎重な政策判断を求める。

 「異次元」とも称された金融緩和路線は10年以上も続き、円安や財政規律のゆるみなどの弊害をもたらした。2023年に就任した植田総裁は金融正常化にかじを切り、今年1月までに金利を3回引き上げた。

 これまで日銀が目標に掲げた物価上昇率2%はすでにクリアしたが、原料費などのコスト上昇が要因なので実質賃金は下落が続き、日銀が想定する賃金と物価の上昇が連動する状態は達成できていない。

 物価抑制へ早期の利上げを求める声もあったが、1月の金利引き上げから1年近く間が開いた。米国の高関税対策の影響や、物価上昇を上回る賃上げの浸透状況などを分析し、利上げしても企業などが対応できるか見極めたのだろう。

 日本経済がこれまでのゼロ金利から「金利のある世界」に転じる影響は、財政にも及ぶ。これまでは巨額の国債を発行しても最終的に日銀が買い入れる上、利払い負担も少なかったが、今後は日銀の買い入れが鈍り、利払いも増えるからだ。

 しかし国債頼みで膨張した25年度補正予算や、減税の穴埋め財源を確保できなかった26年度与党税制改正大綱は、政府も政治家もゼロ金利の感覚を脱していないことを物語る。

 円相場は10月初めから3カ月足らずで10円近く下落した。「責任ある積極財政」を掲げた高市政権が発足し、国債増発で円の価値が下がるとの見方から、円が売られている。

 財政膨張が続けば円売りは収束せず、日銀の利上げ効果を薄めるばかりだ。物価の安定は中央銀行である日銀の責務だが、政府も財政再建に強いメッセージを発して実行に移さなければならない。