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 発足から1年が経過した第2次トランプ米政権は、もはや暴走と言える状態だ。世界を混乱させ、深刻な危機にさらしている。

 当初、世界各地の紛争から手を引くとしていた「自国第一」は、国益のためなら軍事力の行使も辞さない「力による支配」に変容した。

 高関税をちらつかせて他国を脅し、多くの国際機関からの脱退を米政府に指示した。民主主義を軽んじる姿勢は先鋭化している。第2次世界大戦後、米国主導で築いてきたルールに基づく国際秩序や自由貿易体制を自らの手で破壊しつつある。

 弱肉強食がまかり通る世界にしないために、日本は多国間協調を通じて平和と安定に積極的に貢献するべきだ。米国との新たな向き合い方を探る必要がある。

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 「法と秩序を取り戻す」「平和を構築し、団結させる者になりたい」。昨年1月20日に行われたトランプ大統領の就任演説の一節である。

 一方で、こうも言った。「米国は再び成長する国家となり、富を増やし、領土を拡大し、(略)新しく美しい地平線に国旗を掲げていく国家になる」。平和と領土拡大。明らかに矛盾する主張だが、本人にとっては何ら違和感がないと見える。

 南米ベネズエラのマドゥロ大統領を拘束した今年1月3日の軍事作戦が象徴的だ。他国の主権を踏みにじる行為にほかならず、国際法違反の疑いが濃い。しかし、トランプ氏は石油利権獲得の狙いを隠そうともせず、米紙の取材に「私には国際法は必要ない」と言い放った。

■同盟国にも容赦なく

 ルールを決めるのは自分であり、平和の構築とは米国が儲(もう)かる仕組みを作ることだ-。そう宣言したに等しく、到底容認できない。メキシコやコロンビア、キューバにも威圧的な発言を繰り返す。

 米国の「力による現状変更」をなし崩しに認めれば、世界はさらなる危機に見舞われよう。ウクライナに侵攻したロシアや、台湾問題を「核心的利益」とする中国など強権的な国家を利する懸念がある。

 矛先は同盟国にも向けられる。トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)の加盟国デンマークの自治領グリーンランドの領有に固執し、武力行使の可能性に触れた。

 中ロの脅威から守る目的というが、根拠に乏しい。北極圏の鉱物資源が狙いだろう。この動きに反対する欧州8カ国には、追加関税を課すと表明した。米欧の同盟関係の根幹は大きく傷ついた。

■過剰な同調は避けよ

 米国内では国民の分断をあおり続ける。野党民主党が優勢の都市で政権への抗議デモが起きると、治安維持を口実に州兵を投入した。政敵を排除するために訴追などの司法手段を使い、意に沿わない大学や報道機関を攻撃している。

 中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)の独立性すら脅かす。金利政策で対立するパウエル議長は、司法省の捜査対象となった。米国経済への信頼を損なうばかりか、世界経済を不安定化させかねない愚行である。

 政権や与党共和党内に強力な歯止め役は見当たらず、対峙(たいじ)すべき民主党も一枚岩ではない。米国は国家としての復元力を発揮し、国民の分断と対立を克服できるだろうか。

 トランプ氏は「G2(グループ・オブ・ツー)」という言葉を使うようになった。米中の2極体制で世界を仕切るとの考えだ。

 裏付けるように、昨年12月に公表された米国の国家安全保障戦略は、南北米大陸を中心とした「西半球」を自国の縄張りとして守る原則を打ち出した。日本や韓国には防衛費の大幅増を要求している。

 国際秩序を顧みようとしない米国に対して、日本は過剰に同調すべきではない。法の支配や民主主義といった普遍的価値観を共有する国々との連携を深め、多国間協調を主導する必要がある。米国が国際社会に背を向ける事態も念頭に、日本の針路を考え抜くときだ。