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 2022年7月に奈良市で参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相を銃撃し殺害したとして、殺人罪などに問われた山上徹也被告(45)の裁判員裁判で、奈良地裁は「多数の聴衆がいる現場で銃を2度発射した悪質性は著しく重い」として求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。

 いかなる理由があるにせよ、暴力で社会への不満を訴えることは決して許されない。ただ、なぜ被告がそうした犯行に及んだのか、十分に明らかになったとは言えない。

 事件は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の高額献金問題を再認識させる契機ともなった。母の入信で家庭が崩壊し兄を自殺で失った被告は「宗教虐待」の被害者だとして弁護側は懲役20年以下を求めていた。

 判決は被告の生い立ちが事件に与えた影響について「くむべき事情はない」と否定し、全ての起訴内容を認定した。元信者ら被告の境遇に同情する関係者も多い中、聴衆の危険を顧みず元首相を殺害した結果を重視したとみられる。

 公判の焦点の一つは、安倍氏に殺意を向けた動機だった。

 兄の死で恨みを募らせた被告は当初、教団幹部を狙った。だが機会を見いだせず、教団と政治の関係の「中心にいる」と認識していた安倍氏に標的を変えた。21年に教団の友好団体にビデオメッセージを寄せていたことを知り、教団が社会的に認められることへの「絶望や危機感があった」と公判で証言した。

 安倍氏への銃撃は「本筋ではない」としつつ、「他の政治家では意味が薄い」と述べた。こうした説明が自己中心的な意思決定ととられ、情状面で重視されなかったと言える。

 事件の約9カ月後、岸田文雄元首相が遊説中にパイプ爆弾を投げつけられる類似事件も起きた。暴力の連鎖を断ち切るために厳しい判決とせざるを得なかった側面も否めない。

 しかし再発を防ぐには山上被告に厳刑を科すだけでは不十分だ。

 旧統一教会の献金問題は1980年代から社会問題化していた。だが政治は根本的な救済策を講じず、自民党議員を中心に選挙協力を通じて教団の接近を許していった。

 銃撃事件後、自民は教団との絶縁を宣言し、接点のあった議員名を公表したものの、教団と関係を深めた経緯などは未解明だ。韓国では、さらに多くの日本の国会議員を選挙で応援したとする教団文書の存在も報道された。政治の責任は教団の解散命令によって免れるわけではない。

 事件が浮き彫りにした「宗教2世」の問題は、社会全体が教訓として胸に刻むべきだ。困窮する人を孤立させず、悩みを共有し解決を図る制度や場づくりを急ぐ必要がある。