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 有権者の審判は、圧倒的な「信任」だった。まだ実績に乏しい高市早苗首相に何を期待し、ここまで勝たせたのか。

 きのう投開票された衆院選で、自民党が過半数を大きく上回る議席を得て、大勝した。連立を組む日本維新の会と合わせ、憲法改正の国会発議に必要な310議席を超えた。立憲民主党と公明党が合流した中道改革連合は大幅に議席を減らし惨敗した。

 首相は強固な政権基盤を得たが、参院で少数与党の現状は変わらない。多数におごらず、野党を含めた幅広い合意形成を図り、国内外の諸課題に腰を据えて取り組む必要がある。

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 2026年度当初予算案の年度内成立を犠牲にした首相の「奇襲解散」により、有権者にとって負担と制約の大きい真冬の短期決戦となった。高い内閣支持率を頼みに、国民生活より自らの政権基盤の強化を優先した解散は、選挙戦を長期的な視点を欠いたポピュリズム(大衆迎合)に染め上げた。

 与野党は目先のアピールに走り、財源確保も後回しに消費税減税や社会保険料引き下げなど負担減を競い合った。一方で、人口減少への処方箋や安全保障などを巡る論戦は深まらなかった。選挙後の国会では将来世代への責任を果たす議論に真摯(しんし)に臨むことを各党に強く求める。

説明から逃げる首相

 首相は解散に際し、「国論を二分するような大胆な政策に挑戦するために、国民の信任が必要」と強調した。国論を二分する政策として「責任ある積極財政」のほか、安保政策の抜本強化、スパイ防止法を含むインテリジェンス機能の強化などを例に挙げた。

 だが公示後は有権者に正面から語ろうとしなかった。演説で時間を割いたのは積極財政や投資などの経済政策が大半だ。「悲願」とする食料品の消費税ゼロは、「首相としては26年度中の実施を目指す」と述べ、「検討を加速する」とした自民の公約より踏み込んだが、街頭演説では発信を控えた。

 減税をするのかしないのかを曖昧にする姿勢は国民に対する誠実さに欠ける。減税を掲げる野党との「争点つぶし」を狙い、財源などを十分に詰めないまま打ち出したのなら無責任というほかない。

 財源なき減税は厳しい財政状況をさらに悪化させ、いずれ国民の負担増として跳ね返る。既に市場は長期金利の上昇や円安で警告を発している。首相は選挙中、「外為特会(外国為替資金特別会計)の運用がホクホク」と円安容認と受け取られる発言もした。批判を受けて釈明したが、物価高を助長しかねず、軽率で思慮に欠ける。

 安保政策も同様だ。自民は安保関連3文書を年内に改定すると公約に掲げるが、防衛費増額の規模や財源、非核三原則の堅持を見直すのかどうかについては、具体的に触れていない。保守色の濃いスパイ防止法制定なども言及を避けた。平和国家の根幹を揺るがす政策転換であることをどれだけ重く認識しているのか。

 一方で選挙情勢が有利と見るや、首相は憲法9条への自衛隊明記を訴えた。与党の大勝で改憲に向けた動きが勢いづく可能性があるが、国民の間で関心が高まっているとは言い難い。まさに国論を二分する重要テーマであり、数の力で強引に押し進めることは許されない。国民の納得を得る熟議が不可欠である。

 「政治とカネ」を巡る議論は低調だった。自民の派閥裏金問題や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係によって失われた政治への信頼回復が重要課題であることを忘れてはならない。先送りを続ける企業・団体献金の規制強化など、政治資金の透明性を確保し不正防止につながる改革こそ、最優先に着手するべきだ。

 政権批判票を受け止めきれなかった野党の責任は重い。

 中道は、立民が違憲としてきた存立危機事態における集団的自衛権の行使を「合憲」と認めるなど公明に譲歩した。その結果、外交・安保や原発をはじめ基本政策で与党との違いが明確にならず支持層の離反を招いた。自維政権に代わる政策の選択肢を示せるか、党勢回復には相当な覚悟が要る。

有権者は政権監視を

 多党化時代を反映し、昨年の参院選に続いて参政党やチームみらいが躍進した。既存政党に対する批判の「受け皿」となった形だ。国民民主党は伸び悩んだ。

 選挙結果は政権への「白紙委任」ではない。投票すれば終わりではなく、選ばれた議員が負託に応えているか、監視し声を上げることも有権者の責任だ。国民の厳しい目が今こそ求められている。