民主主義のルールを踏みにじった権力者の暴挙に、司法が重い判断を下した。
2024年12月に「非常戒厳」を宣言し、内乱首謀罪に問われた韓国の前大統領、尹錫悦(ユンソンニョル)被告に対して、ソウル中央地裁は無期懲役の判決を言い渡した。特別検察は死刑を求刑していた。
判決は「軍を国会に送り暴動を起こした」として、前大統領の行為は内乱罪に当たると結論付けた。その上で「民主主義の核心的な価値を壊した」と非難した。
非常戒厳の宣言を受けて戒厳司令部が出した布告令は、政治活動の禁止やメディア統制を含む内容だった。この事件は国内外に衝撃を与え、1987年の民主化以降、韓国が国際社会で築いてきた信用を深く傷つけた。代償は大きく、司法が厳しく断罪するのは当然と言える。
一方で、緻密に計画されたものではなく大部分が失敗した点や、流血の事態にならなかったことなどを踏まえ、死刑を回避した。被告の65歳という年齢も考慮した。
前大統領は、当時の野党が国政をまひさせて非常事態にあることを国民に知らせるための「正当な権力行使」だったと無罪を主張していた。弁護団は控訴した。
歴代大統領のうち無期懲役判決を受けたのは、全斗煥(チョンドゥファン)氏に続いて2例目となる。全氏は、民主化を求める市民を軍が弾圧し、多くの犠牲者を出した80年の光州事件などを巡って反乱・内乱罪に問われ、一審で死刑となったが、二審で無期懲役となった。その後に恩赦で釈放された。
尹氏による戒厳令に、光州事件を思い出した国民は多いはずだ。国会議事堂周辺に人々が集結し、抗議の声を上げたのはその表れだろう。韓国は保守と革新の対立が激しいが、世論調査では戒厳令に対しては党派を問わず拒否感が強い。
しかし、事件は社会の亀裂を一段と深めた。判決文も「極限の対立状態に陥った」と指摘した。保守派の尹氏が死刑を免れたことで、革新派からは不満が出ている。保守の中でも尹氏との決別を訴える声の一方、「尹、アゲイン(再び)」を掲げる強硬勢力が台頭しつつあり、混乱が懸念される。
罷免された尹氏の後任として2025年6月に就任した革新系与党の李在明(イジェミョン)大統領は、分断の修復に努めてほしい。今年6月には統一地方選挙が予定される。党派対立をあおる言動は慎むべきである。
権力者の暴走を人ごととしないことが重要だ。世界で法の支配や国民主権といった価値観に揺らぎが見える中、民主主義の意義を改めて確認し、社会で共有する必要がある。

























